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22 下水管とドブ板水路が併存する仕組み

 (「21 遊園にはなぜドブ板水路が残っているのか」))からつづく

 遊園ラビリントに限らず、多摩区には農業用水路が豊富に残っている。
 遊園よりも上流にあたる中野島付近では石積み護岸の美しい流れがあり、ここが川崎だとは思えない。

  中野島の分水 中野島の分水

 しかしこれを5kmほど下流側に行くと、例のベギアトアの繁茂するドブ川の出現する場所(長いので以下「ベギアトア繁茂A地点」と略す)に出る。この間に何があるのか。
 
 厳密にいうと両者はダイレクトに繋がっているわけではけれども、二ヶ領用水系の水源は多摩川の流水(BODで2mg/lくらい)なので、単純に考えると多摩川よりも汚れた水が流れていたら、それは途中で何らかの要因で汚染されているといえる。
 
 この間にあるのは小田急線向ヶ丘遊園駅と登戸駅周辺の市街地である。
 昔を知る人に聞くと、ここに近年まで製紙工場があり、その排水がベギアトア繁茂A地点(まだ長いので「ベギA」と略す)まで流れていたという。
 平成10年頃のベギAの水質はBODで20mg/l。今のベギAの水質は10mg/lで、それでもけっこうドロドロだから、当時の汚染度が伺える。

 昔、製紙工場の排水が問題になったのは、硫黄混じりの大量の汚泥が含まれていたからである。
 製紙工場は、木材を砕いて薬品で溶かして繊維を取り出して紙に仕立てる。このときに繊維以外の大量の不純物と、硫黄化合物を含む薬品が排出され、これを未処理で排水すると硫化物混じりのヘドロを生む。
 昭和の高度成長期に静岡県の田子の浦が汚れたのはこのメカニズムによるものであった。遊園ラビリントにもこうした問題があったのであろう。

  参考:「製紙工場から出る臭い分子たち」(ちょっと長いがすごくよくわかる)

 しかしその工場は今はない。だとすると原因は製紙工場だけではない。
 下水のにおいのするドブ板水路を上流に遡ると、小田急線の向ヶ丘遊園駅のホーム先端をかすめて駅の北口に出た。このあたりも道路とドブ板水路が入り組むラビリントになっている。ただし、あちこちの区画が更地になって建設工事中になっている。
 
 このあたりは、狭い道路に家が建て込んでいるので、いったん全部更地にして道路を引き直す区画整理事業というものが進行している。その道路の下に下水管を敷いて完成の暁にはここに下水を流すことになっている。
 ところが区画整理はとかく時間がかかるもので、この地区も20年越しで取り組んでもまだ完成しない。

 取り組み始めたのはこのあたりに下水道が普及する前の時代である。その時代はどういう下水処理をしていたかというと、

 ・トイレは浄化槽付きの水洗(またはボットン便所)
 ・トイレ以外の生活排水は未処理で側溝に流す
という形である。これが向ヶ丘遊園から登戸にかけての区画整理区域ではまだ残っていることになる。

 排水の流れる側溝は北口のドブ板水路に繋がり、小田急の線路をくぐって南口ラビリントのドブ板水路に流れ着く。南口ラビリントには1980年代に下水管が開通しているので、水路を流れる排水をこれに繋いでしまえばドブ板水路もベギAも汚れずに済むが、そうはいかない。
 
 側溝は基本的に雨水を流すための設備であり、降雨時には大量に水が流れる。一方、南口ラビリントの下水管は分流式の汚水管といって生活排水だけを流すことを前提に細い管でできている。「雨はとりあえず側溝や用水路を流れてくれ」という思想のもとに作られた下水管である。
 だから側溝を下水管につなぐと雨の時に溢れる。よって下水管への接続は無理。このような事情で、生活排水は側溝に流れたが最後、用水路→川→海という経路で自然流下するしかなく、かくして汚水の流れる用水路と下水管が並行するという妙な風景が現れる。

 これがベギAを生む仕組みである。この仕組みが解消されるのは区画整理がいつか完成して下水道が整備された時ということになる。と思っていたのだが、平成23年にこの仕組みは意外な方法で解消する。(23 ドブ川の終焉につづく)

 

下水管とドブ板水路が並存する仕組み(イメージ)

下水道接続模式図 



参考文献:
「水質汚濁の現状と対策」(川崎市のHPのPDF資料)の8枚目(57ページ)
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23 ドブ川の終焉

 (「22 下水管とドブ板水路が並存する仕組み)からつづく)
 
 平成23年にベギAは突如消滅した。
 水路は残っているが空堀になってベギアトアも汚水もきれいに消えている。彼らはどこへ行ったのか。
 水路を覗き込むと、水路の隅に小さな穴があけられていてそこに汚水が吸い込まれている。

ベギA消滅の現場 ベギA消滅の現場


 南口ラビリントの下水臭を発していたドブ板水路も同じような穴が開けられて吸い込まれ、そこから下流は空堀になっている。
 汚水を吸い込む穴があけられたところは新品のコンクリートますとグレーチングが取り付けられているので、何らかの工事がされたようである。以前私が目にした工事が関係しているのかもしれないが、その時は工事の内容のことは細かく聞かなかったので分からない。もっとよく聞いておくんだった。 
 一体どのような工事がされて汚水が消え去ってしまったのか。私はまたしてもギモンに包まれた。しかし考えられるのは二つの可能性しかない。
 
  ①ドブ板水路の流路を切り替えて、並行する既設の下水管(汚水用)に流れるように工事をした。
  ②ドブ板水路の流水を流すための何らかの暗渠管を新たに作る工事をした。
 

 このうち①の可能性は低い。理由は二つ。
 一つ目。前の章で触れたように、これをやると雨天のときに下水管が溢れる。
 二つ目。この方法だと下水料金を払っていない家から流された排水がドブ板水路と下水管を経由して下水処理場で処理できてしまうという矛盾が生じる。
 下水処理の費用は流した人が払う下水料金で賄うルールなので、下水料金を払っていない人の排水を処理するわけにはいかない。カタい話ではあるが、これがまかり通ると「なあんだ、じゃあうちもそうするから下水料金タダにしてよ」となって収拾がつかなくなる。
 
 ところがこのルールには例外がある。
 それは「雨水の処理費用は市が負担しましょう」というものである。これは当然の話で、住民は降った雨の処理費まで負担する義務はない。
 だから、生活排水と雨水が混ざって流れる合流式の下水道では雨の量に相当する分のコストを、分流式の下水道(多摩区など)では雨水管のコストをそれぞれ市が負担(といっても元は税金であるが)する仕組みになっているそうである。
 
 さて。
 私は全然知らなかったのだが、この遊園ラビリント周辺は浸水常襲地帯であった。
 多摩川に近い低地なのでもともと大雨が降ると浸水しやすいうえに、農地が宅地化したので降った雨が地面に浸み込まない。
 本来、「分流式」というからには汚水管のほかに雨水管もあってしかるべきではあるが、遊園ラビリントにはほとんどない。「雨はとりあえず側溝と用水路を流れてくれ」ということで、おそらく次の理由から雨水管建設が後回しにされてきたのではないだろうかと推測する。

  ・せっかく側溝や水路という流路があるのに、これを空堀にしてまで地下に管を新設する必要性がない。
  ・流れるのは汚水ではないので、焦って地下に隠す必要がない。
  ・雨水管は大雨の時を考えて巨大な管が必要になるので費用と時間がかかる。
  ・下水道普及率が低い段階では、まだ側溝に汚水が流れているのでこれを雨水として処理してしまうのは何か変。
  ・遊園あたりの用水路は断面が大きいから雨水管がなくても大丈夫だろうと考えた。

 
 ところがこの方式は、やがてうまくいかなくなる。原因は宅地化の進行と最近多いゲリラ豪雨である。「雨は側溝と用水路を流れてくれ」方式では容量が足りなくなって溢れるようになった。

 そこで市は②の方法、すなわち道路の地下に巨大な暗渠の雨水管を作ることにした。
 暗渠の雨水管は多摩区の低地部を貫流して最後は多摩川にそのまま放流される。雨水だから未処理で川に流してしまっても問題ない。(※1、2)
 
 雨水管はどこから雨水を集めるかというと、南口ラビリントのドブ板水路である。
 雨が流れ込んで溢れて浸水被害を起こすのはドブ板水路なのだから、ここに穴を開けて一部を雨水管に流し、多摩川にバイパスして放流してしまえばいい。
 この前見たときは狼狽していたので気付かなかったが、改めて汚水の吸い込まれたますの周りを見回すと、さりげなく雨水管用のマンホール(※3)が新設されていた。ゲリラ豪雨の時は農業用水路と新設雨水管のダブル体制で雨水を多摩川に押し流す仕組みなのだろう。

 ところが、当然ながらこの穴は流量の少ない晴れた日でも開いているので、用水路の汚水は全部暗渠の雨水管に吸い込まれる。かくして古典派ドブ川のベギAは空堀になって汚水もベギアトアもヘドロも一網打尽と相成る。 

 私としては貴重な観察対象が一つ減ることになったが、このあたりに住む人にとっては浸水と悪臭を解消できる一石二鳥のグッドアイデアであったろう。放流先が多摩川という点が気になるが、もともとベギAも二ヶ領用水に混ざって結局多摩川に流れていたので結果は同じといえる。
 どんな水が出てくるのかと多摩川への放流口に行ってみると、予想に反して澄んでいる。
 川底の段差で水が攪拌されると下水処理場のようなにおいが少し漂い、洗剤とおぼしき泡がわずかに浮かぶ。指で掬って舐めてみると少し苦いような気がした。


雨水管模式図


雨水マンホール 後日現場で発見した雨水マンホール



※1実際は排気ガスのススや地面のほこりなどが溶けて結構汚いが、それは一応無視する

※2参考:川崎市議会の議事録 (浸水対策として暗渠の雨水管を作る旨が説明されている)

※3 川崎市の雨水用のマンホールと汚水用のそれを見分けるのは難しい。花や葉の模様の中に小さな傘マークが一つあれば雨水用、いくら探しても傘マークがなければ汚水用である。まるでわざと見分けにくくしているかのようであるが、新しく作られた下水管はすぐにはネット上の下水道台帳には載らないそうなので、それまではこの識別が唯一の手がかりになる。
川崎市マンホール蓋仕様書のページ(PDF)

(その他参考文献)
※(日経コンストラクション,2003年12月26日号「ズームアップ下水道 登戸雨水幹線下水管埋設工事」
(密集住宅地に巨大な雨水管を埋設する工事を解説。この記事は残念ながら有料だが、図解で結構面白い。)

24 ベランダ洗濯機

 しつこいが、川崎市の下水道普及率は99.3%である。
 しかし本当にそうだろうか。どうも私はこの数字が信じられない。下水道普及率がこんなに高かったら、二ヶ領用水や平瀬川、矢上川といった川崎の川はもっときれいになっているような気がする。

 下水道普及率とは、正式には「下水道人口普及率」といい、「下水道に接続しようと思えばできる人口」が、その市の人口の何%にあたるかを表す数字だそうである。
 だから下水管は近くまで通ったけれども自宅との接続工事をしていない人や、下水管が自宅より高い場所にあって接続が難しい人がいても関係なく普及率に含まれる。したがって川崎市の99.3%の人が下水道に接続して生活しているわけではない。
 
 では実際に接続している人は何%なのか。
 それを表す数字は「水洗化率」という。水洗化率とは「下水道に接続してボットン便所を水洗便所にすることのできた人の数」のことで、これが川崎市は98.91%。

 川崎市の水洗化率(クリックすると環境省のページからエクセルファイルのダウンロードが始まります)

 ここで疑問なのは「水洗便所というものは下水道がなくても浄化槽があれば設置できてしまうのではないか」ということで、「水洗トイレの排水は浄化槽処理、生活雑排水(炊事・風呂・洗濯)は垂れ流し」というパターンの家はけっこうある。
 しかし川崎市ではこれは「水洗化した」とは定義しないという。
 だから、「水洗化率=実際に下水道に接続している人の割合」になる、という理屈らしいのだが、ややこしくてだんだん分からなくなってきたので整理してみた。(※)

  A  水洗トイレ排水も生活雑排水も下水道に接続している家・・・98.91%
  B1 水洗トイレ排水と生活雑排水を浄化槽で処理して側溝へ流す家(「合併浄化槽」という。)・・・0.16%
  B2 水洗トイレの水だけ浄化槽で処理して側溝へ、他の雑排水はそのまま側溝へ流す家(「単独浄化槽」という)・・・0.58%
  C  下水道も浄化槽もなく、トイレはボットン便所の家・・・0.35%


 A(98.91%)は川崎市の実質的な下水道普及率である。
 AとB1を足した数(99.07%)は「汚水処理人口普及率」といい、何らかの形で排水を全量浄化している人の割合である。
 これが100%になれば川はきれいになる。よってB2とCを駆逐することがドブ川追放に向けての目標となるが、川崎市の場合はその手段としてA(下水道)の100%普及を選択しているので、B1(合併浄化槽)も駆逐の対象となる。


 A類型とB2類型の図
    (下水道接続済みの家)とB2(単独浄化槽の家)の模式図(第22章の図を流用)。
    ・B2の台所風呂洗濯排水が浄化槽で処理されるとB1になり、
    ・B2の水洗トイレをボットン便所にして、単独浄化槽をなくすとになる。


 ここで分かるのは川崎市の場合は、どの数字をとったとしても99%前後の高率になるということで、ここまで高ければ川の汚染を云々するレベルではない。

 これがどうも実感と合わない。
 よく下水道のパンフレットに、「雨水と家庭排水を一緒に処理する形の旧式の合流式下水道では、大雨になると処理場で処理しきれないので、その分を処理せずに川に流すので川が汚れるのです」という説明を読むことがあるが、そういう問題以前に晴れた日でも妙な水が川に流れるのを見ることがある。
 
 以前、杉並区の神田川沿いを歩いていたときのことである。
 川に近いところで家の改築工事をしていた左官屋さんが、やおらセメント色をした水の入った巨大バケツに手をかけるや側溝にジャー、と流した。おおこういう風にして川は汚れるのか。
  そのほかにも熱湯の汚水を側溝に捨てるクリーニング屋の主人や、変な色をした水を側溝に流す塗装屋さんなど、いろいろな人がいろいろな汚水を側溝に捨てているのを発見した。そういえば私も飲み飽きたコーラを側溝に流したり、道路で洗車したことがある。
 
 そしてある日ついに決定打と思えるものに遭遇したのである。
 ある日私は川崎市の多摩区でドブ探検をしていた。すると二ヶ領用水の支流に注ぐ側溝の排水口の下で洗剤の泡が立っているのが見える。
「むむ。」
 私は側溝を遡って辿った。側溝の雨水ますから中を覗くと、ますの中も泡立っている。この泡はどこから立ったものか。泡の見えるますを追って歩く。ヘンゼルとグレーテルのパンくずの話に似てきた。


  ヘンゼルの泡 水路に立つ下水の泡のイメージ(これは本文とは別の場所の二ヶ領用水)

 
 私の目に入ってきたのは、アパートの玄関脇やベランダに置いてある洗濯機であった。
 今時のアパートは室内に洗濯機置き場があるが、昔は洗濯機は外に置いていた。私の生家も一戸建てだったが屋外に置いていた。
 しかし下水道の汚水管は室内にしかつながっていないので、屋外の洗濯機の排水は雨水と同じく側溝や雨水管を通じてそのまま未処理で川に行く。ベランダも同じである。ベランダに洗濯機を置くと排水は全部雨水管に流れる。 
 洗濯の排水はBODで表すとだいたい50~100mg/lくらい。これは洗いからすすぎまでに流す水をすべて平均するとそのくらいということで、洗剤だらけの洗いの水はもっとBODが高く、逆にすすぎの水は低い。
 この値を分かりやすい例と比べるとどうなるか。
 
 下水処理場から放流される水のBODは5mg/lくらい、石神井川下流のような濁り気味の都市河川の水がだいたい7mg/lくらい、昭和40年代の真っ黒な隅田川の水質が35mg/l、下水管を流れる生の下水が約200mg/lであるから、洗濯排水は昔の隅田川の2倍くらい汚い水といえる。
 家庭の排水で一番「濃い」のは台所とトイレで、洗濯排水は「薄い」排水の部類に入るが、量が多く屋外に流されやすいという点では危険な伏兵といえる。


  ベランダ洗濯機B類型(アパートの玄関脇) 
  アパートに多いベランダ洗濯機のパターン
  (これはベランダではなく「ローカ洗濯機」であるが、細分化するのも面倒なのでベランダとしておく。亜種として「ニワノノキシタ洗濯機」もある。)
 
 これが実質的な下水道普及率を押し下げている元凶ではないか。
 私は街を歩くと玄関脇とベランダに洗濯機がないかキョロキョロ見るようになってしまった。どうも不審者のようで気が引けるが、おかげで実態が分かった。

 ① 川崎市内でベランダや玄関脇に洗濯機を置いている家は、100軒に1軒くらいの割合で出現する。
 これはかなりおおざっぱな目視で、「10軒に1軒まではいかないが、1000軒に1軒はゆうに超えるだろう」という聞いてあきれるアバウトさであるが、これによれば多摩区10万世帯のうち1000世帯がベランダ洗濯機であろうということになる。
 遊園駅近辺を15分も歩くと30基くらいのベランダ洗濯機を確認できるから、当たらずとも遠からずと思う。
 ② 川崎市は新興住宅地でも古いアパートや住宅がけっこうあるので、①の出現比率は区を問わず適用できると考えられる。
 ③ ただし、合流式下水道のエリア(市域のだいたい半分=川崎区+幸区+中原区の南半分)ではベランダの排水も下水処理場に行くのでこの問題は関係ない。
 ④ 洗濯排水は汚れのウェイトとしては家から出る排水の10%くらいを占める。

 このきわめていい加減な調査結果をもとに、「ベランダ洗濯機の公式」を組み立てて計算してみる。
ベランダ洗濯機による実質的な下水道普及率の押し下げ率=出現割合0.01×分流エリアの割合0.5×汚れのウェイト0.1=0.0005。
 つまりベランダ洗濯機は下水道普及率を0.05%押し下げるだけの影響しかない。

 これでは水質汚濁の主因とはいえない。
 そもそも洗濯機は誰でも屋内に置きたいものであって、あえて屋外に置くのは家屋がものすごく古くて屋内に置けない場合である。さらに、そういう家には下水道は来ていないことが多い。
 下水道が来ていないのであれば洗濯機が屋内でも屋外でも結果は同じで、これを加味すると前出の数値はもっと低くなる。
 それでいいということにはならないが、下水道普及率とのギャップとの関係は薄いといえる。川の汚れの原因はほかにありそうである。


※参考  「生活排水対策」(沖縄県庁のHP。洗濯排水の汚れがどのくらいのウェイトを占めているかが一発で分かる)

      「ベランダに洗濯機を置いている方へ」(徳島県藍住町のHP)

      大手量販店によるベランダ洗濯機の説明の例

25 雨の日の生下水

 ここまで書いた内容を見ると、まるで市の広報紙の「下水道局からのお願い」のようになってしまっているが、私の関心はあくまで、「どうしたら効率的に古典派ドブ川のサンプルを見つけることができるか」であって、「どうしたら川はきれいになるか」はその裏返しに過ぎない。と原点を再確認したところで川の汚濁要因の探求を続ける。ドブ川のモトは何か。

 ベランダ洗濯機のような小さな要因を除くと、川の汚染の要因は次の3つくらいになる。
  ①大雨の時に未処理の下水が川に流れる問題
  ②浄化槽の性能の問題
  ③窒素分の問題

 ①は、戦後の早い時期に下水道が普及した大都市に特有の問題で、川崎では川崎区から中原区にかけての地域でこの問題を抱えている。
 大都市では人口が急に増えて川が急にドブ川化したので、急いでしかも格安に下水道を作る必要があった。そのために生活排水と雨水を一緒の管で流す合流式下水道を作った。雨水は本来下水処理する必要はないのだが、生活排水と雨水を分けて流そうとすると下水管を2本造らなければならないので合流させて一本で済ませた。

 雨水は当然のことながら晴れた日と雨天時の流量の差が激しい。
 なので、合流式の下水管は晴れた日はスカスカで、豪雨の日は溢れる。最初から巨大な管を作っておけば安心だが、晴れた日に流量が少なくて滞留すると硫化水素発生の元になるので中途半端な太さの下水管を敷く。それで案の定、晴天時には硫化水素が少し発生し、雨天時にはたまに溢れる。

 晴天時の硫化水素はとりあえず下水管に密閉しておくとして、問題は雨天時の溢水である。
 これを防ぐために豪雨の時には合流式下水管の下水を未処理でそのまま海や川に流す。
 溢れて浸水を招くよりはよかろうという考え方であるが、これが水質汚染の原因になる。中小河川の護岸には雨の時だけふたが開く排水口があって、大雨の時に見に行くとそこから茶色の水が吐き出されるのが見える。ただ、大雨の時はもともと水は濁っているものだし、私にはそれがそんなにまずいことなのかどうかよく分からない。

(合流式下水道の欠点)
合流式下水道の欠点


 しかし数字で見ると、やはりこれがまずいことだということがわかる。
 普通、下水管を流れる汚水のBODは100~200mg/lくらい。だから大雨の時に未処理で流すとそれがそのまま流れ出る。大雨で少し薄まるかもしれないが、汚れの量が減るわけではない。
 下水処理場というところがいつもBOD5mg/l近辺の水質を維持するのに神経を使っていることを考えると、これは桁違いにまずい。
 有明海の海苔の養殖地を抱える福岡県大牟田市の処理場では、工夫を重ねて「おおざっぱにしか処理できなくてもいいからなるべく多くの汚水を処理する」という方針で頑張っているそうだが、それでもBODで60mg/lくらいの水は海に流れ出てしまう。そういえば以前、雨の日の海で波乗りをしているといつもより海がくさいような気がしたが、それは気のせいではなかったのだ。
 
 この問題が水質汚濁の一番の問題で、下水処理場に見学に行くと一番強調して説明される。
 しかも汚水を河川に吐く時に下水管にこびり付いた汚泥混じりのスカム(汚泥と油分が混じって固まった黒い物体)が剥がれて流れ出てしまうという問題も抱えている。
 実際に合流式を採用している東京都心部の中小河川の下流部に行くと、雨天時に合流下水管から吐き出されたと思われるスカムがプカプカ浮いているのが見える。

 東京都心部の川はBODの数値上はそれほど汚れていないが、スカムが浮いていると視覚的にものすごく汚く見える。人間の視覚は不思議なもので、同じ汚れでも一様に汚れているものよりも、異物が混じりながらまだら模様に汚れているものをより汚く感じるようである。
 たとえば私たちは、ミカンの食べかすだけが入っているごみ袋よりもミカンの食べかすとリンゴの食べかすとスイカの食べかすがごちゃ混ぜになったごみ袋のほうを汚く感じる。汚さという点ではほとんど差がないのに妙なことである。
 これは「汚染とは何か」という深遠なテーマを引っ張り出してしまいそうな気がするのでここではあまり考察しないことにするが、スカムに関していえばこれがあると確実にドブ川感がアップする、そのように言えると思う。

 しかしこんなことを言うのは不謹慎だが、合流式下水の吐水は豪雨時の一時的な現象で、しかも一気に海に流れてしまうから古典派ドブ川の生成とはたぶんあまり関係がない。スカムにしても下流部の感潮域だと海に流れずに滞留するが、水に溶けにくいので水質にダイレクトに影響してこない。私が注目しているのは②の「浄化槽の性能の問題」のほうである。

下水吐にたまったスカム 下水管から河川に未処理下水を放出した際に吐き出されたスカム(東京都港区の古川)

参考文献
マニュアルにはない水質管理 ~お金をかけずに求められる水を~
古賀みな子著 環境新聞社刊 
この著者(下水処理場の元所長)は①雨の時に下水を少量受け入れて完璧に処理しつつ、大量に未処理下水を出すのと、②できるだけたくさんの下水をざっくりとでいいから処理するのとどっちがいいか悩んで職員と実験している。この人は所長なのに何でもかんでも実験するところが面白い。

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プロフィール

大石俊六

Author:大石俊六
掲載雑誌
雑誌「『広告|恋する芸術と科学』2014年10月号(特集|Tokyo River Story 東京、川ろうぜ。)『私はどうしてドブ川を覗き込んでしまうのか』

マーガレットプレス 連載『ギモンの細道』

・「ラミネート」
(第10号/ラミネートを発明した人はコンブを手本にしたのではないか、の巻)

・「人馬平安散」
(第9号/「金はなぜ貨幣に使われるのか」を調べていたら四ツ谷駅前のハイフキヤドラッグにたどり着く、の巻)

・「恋とはどんなものかしら」
(第7号/オペラ『フィガロの結婚』で資本主義の発展の秘密にたどり着く、の巻)

・「神社と石橋」
(第6号/神社の前にはなぜ石橋があるのか、の巻)

・「夏帽子製造工場」
(第5号/鮫洲にあった紙帽子工場を調べたら横浜の三渓園にたどり着く、の巻)

・「イベリア半島の睡魔あるいは美しき怠惰」
(第4号/スペイン人はただ暑いからという理由だけで昼寝しているのか、の巻)

・「靴下のゴムはなぜ伸びるのか」
(第3号/靴下のゴムが緩む原因を調べたら長篠の戦にたどり着く、の巻)

・「シュロの奏でるハ短調」
(第2号/シュロの木を植える習慣は南国への憧れのほかにもうひとつ理由がありそうである、の巻)

また、季刊collegio(38,39号)には「水路敷区道扱い」というエッセイを書いています。
・「戸越公園の水路敷」(38号)
・「水路敷と銭湯」(39号)

その他の作品(文芸誌「フノリ」に掲載)
・「海抜の季節風」(渋谷川暗渠区間の高度をしつこく探求)
・「着席自由権」(パリのカフェのカウンター席とテラス席の料金差と客の滞在時間の関係を現地でしつこく調査)

カテゴリ
「日本のドブ川」カテゴリを廃止して「法律からアプローチする」を新設しました。ドブ川を全国レベルで捉えると、どうしても法律の話メインになるのでこのように変更しました。(H26.11.15)
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