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51 アオコのにおい

 霞ヶ浦のアオコ 霞ヶ浦(茨城県土浦市)

 第50章『泳げる霞ヶ浦』を読んだ方からコメントをいただいた。
 平成25年の夏も霞ヶ浦にはアオコが発生し、においもひどかったという内容であった。
 
 霞ヶ浦のアオコは以前ほどひどくはないと聞いていたし、私が訪れた7月15日はアオコは見なかったが、おそらく水温の高くなる8月頃にはアオコが発生する日もあったのだろう……。
 そう思って国交省の霞ヶ浦河川事務所のホームページを見た。ここに毎日のアオコ発生状況が載っている。
 
 すると、7月15日にもアオコは大発生していて悪臭がひどかった、とある。しかも6段階あるうちの発生レベルのうち、悪いほうにあたるレベル4で、あろうことか私の訪れた土浦港で発生していたという。私はあの日いったい何を見ていたのか。
 
 私は反省し、平成25年9月29日、再び土浦にやってきた。
 自分の目でアオコを確認したい。9月の終わりならまだ水温は高いからアオコはいるはずである。天気は晴れ、気温25℃、湿度52%、南南東の風、風速2m/sであった。筑波山がくっきりと見えた。
 
 コメントを下さった方の情報では、新川という小河川でアオコが大発生したというので川を遡ってみる。

  アオコ除去装置

 しかしアオコは見えない。川の水は濁っていて決してきれいではないが、アオコはない。アオコ抑制装置が稼動しているのが見えたが、抑制装置が効果を発揮しているのか、アオコは見当たらない。しかし今日は絶対にアオコを見つけ出したい。
 霞ヶ浦に戻って今度は西岸を行く。アシの水辺をよく見る。するとアシの茂みの水面に緑色の塗膜が見えた。
 
  アオコ軍団

 これだ。
 これがアオコというものであるか。
 まさに抹茶色のペンキである。鮮やかだった。
 アオコはペンキを流したように見えるが、よく見ると2mm四方くらいの物体が無数に浮遊している。そのうちの一部は護岸のコンクリートにへばりつき、緑色に染め上げている。
 比重が水より軽いのか、アオコの浮かんだ水を木の枝でかき回すと一時的に沈み、また浮かぶ。枝ですくってみると粘性があり、枝によく付く。例えるとインドカレーくらいの粘り気で、水分は含んでいるが決して水には溶けない。
 コンクリートに擦り付けてるとよく付き、アクリル絵の具のように伸びがよくて鮮やかで不透明である。
 
  アオコ棒

 鼻に近づけてみるとにおいはしない。
 ボトルに入れて振ってにおいを嗅ぐとかすかに青くささを感じるが、それほど強烈なものではない。アオコは悪臭があるという話だが、少なくとも水に浮いている状態では無臭に近い。
 
 このアオコをペットボトルに入れて持ち帰ることにする。
 アオコの浮かぶ湖水に腕を入れると皮膚にもよく付く。水ですぐに洗い流せるが、アオコが付いたところは後で少し痒くなった。「アオコは触っても問題ない」と書いたが、どうやらかゆみが出るもののようである。

  採れたてアオコ
 
 私は、猛毒ミクロキスティンを詰めたボトルをバッグに忍ばせて帰宅し、毎日自宅で観察した。以下は観察記録である。
 なお、ボトルは蓋を閉めて自宅の窓際に置いた。したがって、アオコは自然状態のものより早く酸欠になり、腐敗することになる。

1日目(採取日)
  アオコ1日目 
 ・静置するとアオコの緑の層と透明な水の層がくっきり分離する。
 ・木のくずのような沈殿物がごくわずかに底に溜まっている。
 ・においはわずかに青臭いにおい。強引に例えると「ライチの腐ったにおい」。

2日目~4日目
 ・変化なし

5日目 
 ・振ってみると緑色が均一に広がり、また2層に分かれる。

6日目~8日目
 ・外見上あまり変化なし。
 ・依然鮮やかな緑色を保つ一方、底にこげ茶色の沈殿物が増えてくる。

9日目
 ・よく振って蓋を開けると鼻が曲がるようなにおいがする。
 ・鼻が曲がりながら臭気を分析すると、臭気は①刺激臭、②青臭さ、③腐卵臭で構成されていると思われた。
 ・①はアンモニア、②はアオコのもともとのにおい、③は硫化水素ではないかと思われる。

13日目
  アオコ13日目
 ・①と③のにおいが増強されている。汲み取り便所のにおいに似ている。
 ・アオコは鮮やかさはなくなってくすんだ緑色になっている。
 ・底にはこげ茶色のヘドロ状のものが増えている。
 ・透明だった下部の水が緑色に濁ってきた。

21日目
  アオコ21日目
 ・におい変わらず。
 ・アオコの鮮やかさはくすむ傾向。
 ・ヘドロ状のものはあまり増えないが黒くなる。
 ・水の色の緑色化は加速。

47日目~119日目(写真は119日目)
  アオコ119日目
 ・においは微減傾向。
 ・水は均質に濁り、緑色から黒緑色へと変色。
 ・以降あまり変化なし。

 さて、確かにボトルのアオコは鼻の曲がるようなにおいであったが、果たしてこれが「霞ヶ浦のアオコのにおい」なのか。
 それを知りたければ来夏まで待って現場で嗅げばよいわけであるが、時間がかかりすぎるので書籍で調べることにする。昭和40年代の霞ヶ浦を記録した写真集で、霞ヶ浦沿岸出身の医学博士が出版したものである。ここにアオコのにおいの形容が載っている。

 ・汲み取り便所臭
 ・どぶ臭
 ・鶏卵腐臭
 ・にんにく腐臭
 ・たくあん腐臭
 ・大便臭
 ・汗臭

 ぴったり合っている。ペットボトルアオコはこれらの臭気を混合したようなにおいである。たくあん腐臭とは言い得て妙で、まさにそういうにおいも混じっている。このにおいが湖岸に漂うのか……。
 私は前章で、においの問題は大したことがないようなことを書いていたが改めたい。アオコのにおいは大問題である。
とは言うもののギモンも残る。それは、

「アオコのにおいは確かに激臭だが、そのほかの腐敗物に比べてさして差があるとも思えない」

という点である。においということなら底に大量に溜まっているヘドロだってくさいはず。それなのになぜアオコのにおいだけが問題視されるのか。アオコとヘドロでどのような違いがあるのか。アオコのにおいを嗅ぎながら考えた。
 おそらくこういうことではないか。

 ・確かにヘドロはくさいが、水中に沈んでいるので臭気の拡散は起こりにくい。
 ・一方、アオコは浮かんでいる最中に腐って腐臭を放つ。
 ・まさにこの性質によってアオコは外気に接触しながら腐臭を拡散することが可能になり、ことさら嫌われる要因につながる。


 このことは、第50章『泳げる霞ヶ浦』の時には気が付かなかった。アオコは浮きながら腐るからくさいのであって、沈んでヘドロになる分にはさほどくさくないのではないか。
 そうであれば、次のような発想が出てくることになる。

「アオコが発生してしまったとしても水の中に沈めてしまえばいいのではないか」

 例えば、くさいドブ川というものは、よく見ると水量が少なくて水面上にヘドロが顔を出している。逆に水量が多くて水面下に収まっていれば、水が多少汚くてもさほどにおわない。
 ヘドロの発するガスは大気中(分子同士の結合が緩い)では自由に動けるが、水中(分子同士の結合が堅牢である)では自由な動きを封じられるものと思われる。

 新川で見たアオコ抑制装置は、おそらくこの原理を活用したものであろう。
 この装置は簡単に言うと「水をかき混ぜてアオコが群れるのを防ぎつつ、超音波照射装置でアオコを粉砕して水底に沈める」装置であるが、こうすれば問題の根本的な解決にはならないものの、悪臭問題の解決にはなる。

 霞ヶ浦においてまず我慢ならないのは水質の悪化よりも「外気に触れて腐敗したアオコの悪臭」であろうから、この問題を解決してしまえばひとまず胸を撫で下ろせることになる。こうして時間稼ぎをしつつ地道に水質改善を進める、という霞ヶ浦周辺の戦法が少しずつ分かってきたのであった。
 ただしその戦法は気の遠くなるほど遠大なものであった。そのことは後になって知った。

(追記)
後になって知った結果はこちら。第52章 長距離河川の孤独


(参考文献)
『目で見るふるさと 霞ヶ浦 その歴史と汚濁の現状』 崙書房刊 坂本清著 1976年7月10日
 この写真集は、土浦駅近くの つちうら古書倶楽部で手に入れた。ここは蔵書数がものすごく多い上に質が高いという、驚きの古書店であった。しかも店の脇には、かつて霞ヶ浦と土浦城の堀を結んでいた川の暗渠がある。
 なお、この本は絶版であるが、茨城県霞ヶ浦環境科学センターの資料室で閲覧可能。


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大石俊六

Author:大石俊六
掲載雑誌
雑誌「『広告|恋する芸術と科学』2014年10月号(特集|Tokyo River Story 東京、川ろうぜ。)『私はどうしてドブ川を覗き込んでしまうのか』

マーガレットプレス 連載『ギモンの細道』

・「ラミネート」
(第10号/ラミネートを発明した人はコンブを手本にしたのではないか、の巻)

・「人馬平安散」
(第9号/「金はなぜ貨幣に使われるのか」を調べていたら四ツ谷駅前のハイフキヤドラッグにたどり着く、の巻)

・「恋とはどんなものかしら」
(第7号/オペラ『フィガロの結婚』で資本主義の発展の秘密にたどり着く、の巻)

・「神社と石橋」
(第6号/神社の前にはなぜ石橋があるのか、の巻)

・「夏帽子製造工場」
(第5号/鮫洲にあった紙帽子工場を調べたら横浜の三渓園にたどり着く、の巻)

・「イベリア半島の睡魔あるいは美しき怠惰」
(第4号/スペイン人はただ暑いからという理由だけで昼寝しているのか、の巻)

・「靴下のゴムはなぜ伸びるのか」
(第3号/靴下のゴムが緩む原因を調べたら長篠の戦にたどり着く、の巻)

・「シュロの奏でるハ短調」
(第2号/シュロの木を植える習慣は南国への憧れのほかにもうひとつ理由がありそうである、の巻)

また、季刊collegio(38,39号)には「水路敷区道扱い」というエッセイを書いています。
・「戸越公園の水路敷」(38号)
・「水路敷と銭湯」(39号)

その他の作品(文芸誌「フノリ」に掲載)
・「海抜の季節風」(渋谷川暗渠区間の高度をしつこく探求)
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