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8 モヤモヤ藻

モヤモヤ藻

 ドブ川には必ず藻が生えている。
 きれいなドブ川にはきれいな藻が、汚いドブ川には正体不明の不思議な藻が生えている。
 それらの中で一番目にすることが多いのは、灰茶色のモヤモヤした藻である。水草のような長細いぶよぶよした形をしていて、流れに身を揺らせている。ドブ川のどんよりした印象を助長するような外観で、ごみか何かと間違えて嫌われる。

 このモヤモヤ藻はよく目にするわりには生態があまり知られておらず、専門家に聞いても知っている人は少ない。藻類の中でもノリやワカメは食用になるので研究も進むが、淡水、しかもドブ川に生えるものは何の役にも立たないので関心を持たれないのであろう。しかしモヤモヤ藻もちゃんと役に立っているのである。

 ある日私はテトラポットのある海岸で潜っていた。
 少し濁った海で、テトラポットにはドブ川のモヤモヤ藻に似たものが付着している。
 モヤモヤ藻には気泡が無数に付いていた。
 藻に手を触れると気泡はサイダーのように水面に向かって放出され、しばらく時間がたつとまた藻に気泡が付いた。モヤモヤ藻は光合成で酸素を出しているのであった。

 私は光合成をするのは緑色の葉っぱだけだと思っていたが、光合成自体は何色の葉っぱでもできるようだ。
 陸上植物の葉っぱが緑色なのは、空気中においては緑色が一番光を吸収するのに効率がよいからであって、光の波長が完全に届かない水中ではコンブやノリのように茶色や赤色の葉を持つのが効率がいいらしい。

 モヤモヤ藻が酸素を作ってくれていることを知って、私は認識を新たにした。
 酸素を作ってくれるから認識を新たにするというのは手前勝手な人間中心の考え方であるが、とにかくこれをきっかけにモヤモヤ藻が気になりだした。海の中のモヤモヤ藻とドブ川のものは種類は違うものの、おそらく仲間であろう。
 
 私はあまり汚くない川を選んで入って、底のモヤモヤ藻をつまんでみた。
 すると水草のような形をしていたモヤモヤ藻は、つまんだ途端に泥のように崩れて水滴になって川面に滴り落ちてしまったのである。これはどうしたことであろうか。
 調べてみるとモヤモヤ藻の正体は珪藻という単細胞生物の集合体であるらしかった。
 単細胞生物はふつうプランクトンのように水中を浮遊して生活するが、珪藻の場合は寒天質の粘液を出して岩や別の藻にくっついてモヤモヤと群れることができる。したがって珪藻は水草のような形をしているが実態は単細胞生物の群れといえる。
 珪藻は1億年以上昔から地球上に生息している生物で、特徴は非常に多くの種類があることである。汚れた水、強酸性の水、氷河の下、それぞれに対応できる種がいる。きれいな水の中だとほかの高等生物が生息できるのであまり繁殖しないが、ドブ川など他の生物が生息できない環境では俄然生命力を発揮する。

 それにしても前に調べた嫌気性細菌といい珪藻といい、ドブ川の生物相には感心するばかりである。水草のような形をしていながら単細胞の集合体だというところもニクい。なにやら小魚が団結して大きな魚の形をして外敵に対抗する「スイミー」の童話に似ている(※)。
 ずいぶん汚らしい格好のスイミーではあるが、魚のスイミーは脳細胞を持った高等生物であるのに対してモヤモヤ藻は何も考えない単細胞生物である。それなのに団結できているところがすごい。スイミーの話は「知恵と勇気の大切さ」を教えてくれるが、モヤモヤ藻は「知恵と勇気」がなくても団結だけはできることを証明してしまっている。そういう点では、教育上よくない生物といえる。だから学校の授業でもで教えられず、知っている人も少ないのかもしれない。

※「スイミー」の主題は、実は団結の大切さではなくて、個性を持ったスイミーが魚の目という個性的な役割を演じるところにあるらしい。知らなかった。                                                                                 「名作絵本スイミーの真相」のページ

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プロフィール

大石俊六

Author:大石俊六
掲載雑誌
雑誌「『広告|恋する芸術と科学』2014年10月号(特集|Tokyo River Story 東京、川ろうぜ。)『私はどうしてドブ川を覗き込んでしまうのか』

マーガレットプレス 連載『ギモンの細道』

・「ラミネート」
(第10号/ラミネートを発明した人はコンブを手本にしたのではないか、の巻)

・「人馬平安散」
(第9号/「金はなぜ貨幣に使われるのか」を調べていたら四ツ谷駅前のハイフキヤドラッグにたどり着く、の巻)

・「恋とはどんなものかしら」
(第7号/オペラ『フィガロの結婚』で資本主義の発展の秘密にたどり着く、の巻)

・「神社と石橋」
(第6号/神社の前にはなぜ石橋があるのか、の巻)

・「夏帽子製造工場」
(第5号/鮫洲にあった紙帽子工場を調べたら横浜の三渓園にたどり着く、の巻)

・「イベリア半島の睡魔あるいは美しき怠惰」
(第4号/スペイン人はただ暑いからという理由だけで昼寝しているのか、の巻)

・「靴下のゴムはなぜ伸びるのか」
(第3号/靴下のゴムが緩む原因を調べたら長篠の戦にたどり着く、の巻)

・「シュロの奏でるハ短調」
(第2号/シュロの木を植える習慣は南国への憧れのほかにもうひとつ理由がありそうである、の巻)

また、季刊collegio(38,39号)には「水路敷区道扱い」というエッセイを書いています。
・「戸越公園の水路敷」(38号)
・「水路敷と銭湯」(39号)

その他の作品(文芸誌「フノリ」に掲載)
・「海抜の季節風」(渋谷川暗渠区間の高度をしつこく探求)
・「着席自由権」(パリのカフェのカウンター席とテラス席の料金差と客の滞在時間の関係を現地でしつこく調査)

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「日本のドブ川」カテゴリを廃止して「法律からアプローチする」を新設しました。ドブ川を全国レベルで捉えると、どうしても法律の話メインになるのでこのように変更しました。(H26.11.15)
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