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22 下水管とドブ板水路が併存する仕組み

 (「21 遊園にはなぜドブ板水路が残っているのか」))からつづく

 遊園ラビリントに限らず、多摩区には農業用水路が豊富に残っている。
 遊園よりも上流にあたる中野島付近では石積み護岸の美しい流れがあり、ここが川崎だとは思えない。

  中野島の分水 中野島の分水

 しかしこれを5kmほど下流側に行くと、例のベギアトアの繁茂するドブ川の出現する場所(長いので以下「ベギアトア繁茂A地点」と略す)に出る。この間に何があるのか。
 
 厳密にいうと両者はダイレクトに繋がっているわけではけれども、二ヶ領用水系の水源は多摩川の流水(BODで2mg/lくらい)なので、単純に考えると多摩川よりも汚れた水が流れていたら、それは途中で何らかの要因で汚染されているといえる。
 
 この間にあるのは小田急線向ヶ丘遊園駅と登戸駅周辺の市街地である。
 昔を知る人に聞くと、ここに近年まで製紙工場があり、その排水がベギアトア繁茂A地点(まだ長いので「ベギA」と略す)まで流れていたという。
 平成10年頃のベギAの水質はBODで20mg/l。今のベギAの水質は10mg/lで、それでもけっこうドロドロだから、当時の汚染度が伺える。

 昔、製紙工場の排水が問題になったのは、硫黄混じりの大量の汚泥が含まれていたからである。
 製紙工場は、木材を砕いて薬品で溶かして繊維を取り出して紙に仕立てる。このときに繊維以外の大量の不純物と、硫黄化合物を含む薬品が排出され、これを未処理で排水すると硫化物混じりのヘドロを生む。
 昭和の高度成長期に静岡県の田子の浦が汚れたのはこのメカニズムによるものであった。遊園ラビリントにもこうした問題があったのであろう。

  参考:「製紙工場から出る臭い分子たち」(ちょっと長いがすごくよくわかる)

 しかしその工場は今はない。だとすると原因は製紙工場だけではない。
 下水のにおいのするドブ板水路を上流に遡ると、小田急線の向ヶ丘遊園駅のホーム先端をかすめて駅の北口に出た。このあたりも道路とドブ板水路が入り組むラビリントになっている。ただし、あちこちの区画が更地になって建設工事中になっている。
 
 このあたりは、狭い道路に家が建て込んでいるので、いったん全部更地にして道路を引き直す区画整理事業というものが進行している。その道路の下に下水管を敷いて完成の暁にはここに下水を流すことになっている。
 ところが区画整理はとかく時間がかかるもので、この地区も20年越しで取り組んでもまだ完成しない。

 取り組み始めたのはこのあたりに下水道が普及する前の時代である。その時代はどういう下水処理をしていたかというと、

 ・トイレは浄化槽付きの水洗(またはボットン便所)
 ・トイレ以外の生活排水は未処理で側溝に流す
という形である。これが向ヶ丘遊園から登戸にかけての区画整理区域ではまだ残っていることになる。

 排水の流れる側溝は北口のドブ板水路に繋がり、小田急の線路をくぐって南口ラビリントのドブ板水路に流れ着く。南口ラビリントには1980年代に下水管が開通しているので、水路を流れる排水をこれに繋いでしまえばドブ板水路もベギAも汚れずに済むが、そうはいかない。
 
 側溝は基本的に雨水を流すための設備であり、降雨時には大量に水が流れる。一方、南口ラビリントの下水管は分流式の汚水管といって生活排水だけを流すことを前提に細い管でできている。「雨はとりあえず側溝や用水路を流れてくれ」という思想のもとに作られた下水管である。
 だから側溝を下水管につなぐと雨の時に溢れる。よって下水管への接続は無理。このような事情で、生活排水は側溝に流れたが最後、用水路→川→海という経路で自然流下するしかなく、かくして汚水の流れる用水路と下水管が並行するという妙な風景が現れる。

 これがベギAを生む仕組みである。この仕組みが解消されるのは区画整理がいつか完成して下水道が整備された時ということになる。と思っていたのだが、平成23年にこの仕組みは意外な方法で解消する。(23 ドブ川の終焉につづく)

 

下水管とドブ板水路が並存する仕組み(イメージ)

下水道接続模式図 



参考文献:
「水質汚濁の現状と対策」(川崎市のHPのPDF資料)の8枚目(57ページ)

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大石俊六

Author:大石俊六
掲載雑誌
雑誌「『広告|恋する芸術と科学』2014年10月号(特集|Tokyo River Story 東京、川ろうぜ。)『私はどうしてドブ川を覗き込んでしまうのか』

マーガレットプレス 連載『ギモンの細道』

・「ラミネート」
(第10号/ラミネートを発明した人はコンブを手本にしたのではないか、の巻)

・「人馬平安散」
(第9号/「金はなぜ貨幣に使われるのか」を調べていたら四ツ谷駅前のハイフキヤドラッグにたどり着く、の巻)

・「恋とはどんなものかしら」
(第7号/オペラ『フィガロの結婚』で資本主義の発展の秘密にたどり着く、の巻)

・「神社と石橋」
(第6号/神社の前にはなぜ石橋があるのか、の巻)

・「夏帽子製造工場」
(第5号/鮫洲にあった紙帽子工場を調べたら横浜の三渓園にたどり着く、の巻)

・「イベリア半島の睡魔あるいは美しき怠惰」
(第4号/スペイン人はただ暑いからという理由だけで昼寝しているのか、の巻)

・「靴下のゴムはなぜ伸びるのか」
(第3号/靴下のゴムが緩む原因を調べたら長篠の戦にたどり着く、の巻)

・「シュロの奏でるハ短調」
(第2号/シュロの木を植える習慣は南国への憧れのほかにもうひとつ理由がありそうである、の巻)

また、季刊collegio(38,39号)には「水路敷区道扱い」というエッセイを書いています。
・「戸越公園の水路敷」(38号)
・「水路敷と銭湯」(39号)

その他の作品(文芸誌「フノリ」に掲載)
・「海抜の季節風」(渋谷川暗渠区間の高度をしつこく探求)
・「着席自由権」(パリのカフェのカウンター席とテラス席の料金差と客の滞在時間の関係を現地でしつこく調査)

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