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23 ドブ川の終焉

 (「22 下水管とドブ板水路が並存する仕組み)からつづく)
 
 平成23年にベギAは突如消滅した。
 水路は残っているが空堀になってベギアトアも汚水もきれいに消えている。彼らはどこへ行ったのか。
 水路を覗き込むと、水路の隅に小さな穴があけられていてそこに汚水が吸い込まれている。

ベギA消滅の現場 ベギA消滅の現場


 南口ラビリントの下水臭を発していたドブ板水路も同じような穴が開けられて吸い込まれ、そこから下流は空堀になっている。
 汚水を吸い込む穴があけられたところは新品のコンクリートますとグレーチングが取り付けられているので、何らかの工事がされたようである。以前私が目にした工事が関係しているのかもしれないが、その時は工事の内容のことは細かく聞かなかったので分からない。もっとよく聞いておくんだった。 
 一体どのような工事がされて汚水が消え去ってしまったのか。私はまたしてもギモンに包まれた。しかし考えられるのは二つの可能性しかない。
 
  ①ドブ板水路の流路を切り替えて、並行する既設の下水管(汚水用)に流れるように工事をした。
  ②ドブ板水路の流水を流すための何らかの暗渠管を新たに作る工事をした。
 

 このうち①の可能性は低い。理由は二つ。
 一つ目。前の章で触れたように、これをやると雨天のときに下水管が溢れる。
 二つ目。この方法だと下水料金を払っていない家から流された排水がドブ板水路と下水管を経由して下水処理場で処理できてしまうという矛盾が生じる。
 下水処理の費用は流した人が払う下水料金で賄うルールなので、下水料金を払っていない人の排水を処理するわけにはいかない。カタい話ではあるが、これがまかり通ると「なあんだ、じゃあうちもそうするから下水料金タダにしてよ」となって収拾がつかなくなる。
 
 ところがこのルールには例外がある。
 それは「雨水の処理費用は市が負担しましょう」というものである。これは当然の話で、住民は降った雨の処理費まで負担する義務はない。
 だから、生活排水と雨水が混ざって流れる合流式の下水道では雨の量に相当する分のコストを、分流式の下水道(多摩区など)では雨水管のコストをそれぞれ市が負担(といっても元は税金であるが)する仕組みになっているそうである。
 
 さて。
 私は全然知らなかったのだが、この遊園ラビリント周辺は浸水常襲地帯であった。
 多摩川に近い低地なのでもともと大雨が降ると浸水しやすいうえに、農地が宅地化したので降った雨が地面に浸み込まない。
 本来、「分流式」というからには汚水管のほかに雨水管もあってしかるべきではあるが、遊園ラビリントにはほとんどない。「雨はとりあえず側溝と用水路を流れてくれ」ということで、おそらく次の理由から雨水管建設が後回しにされてきたのではないだろうかと推測する。

  ・せっかく側溝や水路という流路があるのに、これを空堀にしてまで地下に管を新設する必要性がない。
  ・流れるのは汚水ではないので、焦って地下に隠す必要がない。
  ・雨水管は大雨の時を考えて巨大な管が必要になるので費用と時間がかかる。
  ・下水道普及率が低い段階では、まだ側溝に汚水が流れているのでこれを雨水として処理してしまうのは何か変。
  ・遊園あたりの用水路は断面が大きいから雨水管がなくても大丈夫だろうと考えた。

 
 ところがこの方式は、やがてうまくいかなくなる。原因は宅地化の進行と最近多いゲリラ豪雨である。「雨は側溝と用水路を流れてくれ」方式では容量が足りなくなって溢れるようになった。

 そこで市は②の方法、すなわち道路の地下に巨大な暗渠の雨水管を作ることにした。
 暗渠の雨水管は多摩区の低地部を貫流して最後は多摩川にそのまま放流される。雨水だから未処理で川に流してしまっても問題ない。(※1、2)
 
 雨水管はどこから雨水を集めるかというと、南口ラビリントのドブ板水路である。
 雨が流れ込んで溢れて浸水被害を起こすのはドブ板水路なのだから、ここに穴を開けて一部を雨水管に流し、多摩川にバイパスして放流してしまえばいい。
 この前見たときは狼狽していたので気付かなかったが、改めて汚水の吸い込まれたますの周りを見回すと、さりげなく雨水管用のマンホール(※3)が新設されていた。ゲリラ豪雨の時は農業用水路と新設雨水管のダブル体制で雨水を多摩川に押し流す仕組みなのだろう。

 ところが、当然ながらこの穴は流量の少ない晴れた日でも開いているので、用水路の汚水は全部暗渠の雨水管に吸い込まれる。かくして古典派ドブ川のベギAは空堀になって汚水もベギアトアもヘドロも一網打尽と相成る。 

 私としては貴重な観察対象が一つ減ることになったが、このあたりに住む人にとっては浸水と悪臭を解消できる一石二鳥のグッドアイデアであったろう。放流先が多摩川という点が気になるが、もともとベギAも二ヶ領用水に混ざって結局多摩川に流れていたので結果は同じといえる。
 どんな水が出てくるのかと多摩川への放流口に行ってみると、予想に反して澄んでいる。
 川底の段差で水が攪拌されると下水処理場のようなにおいが少し漂い、洗剤とおぼしき泡がわずかに浮かぶ。指で掬って舐めてみると少し苦いような気がした。


雨水管模式図


雨水マンホール 後日現場で発見した雨水マンホール



※1実際は排気ガスのススや地面のほこりなどが溶けて結構汚いが、それは一応無視する

※2参考:川崎市議会の議事録 (浸水対策として暗渠の雨水管を作る旨が説明されている)

※3 川崎市の雨水用のマンホールと汚水用のそれを見分けるのは難しい。花や葉の模様の中に小さな傘マークが一つあれば雨水用、いくら探しても傘マークがなければ汚水用である。まるでわざと見分けにくくしているかのようであるが、新しく作られた下水管はすぐにはネット上の下水道台帳には載らないそうなので、それまではこの識別が唯一の手がかりになる。
川崎市マンホール蓋仕様書のページ(PDF)

(その他参考文献)
※(日経コンストラクション,2003年12月26日号「ズームアップ下水道 登戸雨水幹線下水管埋設工事」
(密集住宅地に巨大な雨水管を埋設する工事を解説。この記事は残念ながら有料だが、図解で結構面白い。)

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プロフィール

大石俊六

Author:大石俊六
掲載雑誌
雑誌「『広告|恋する芸術と科学』2014年10月号(特集|Tokyo River Story 東京、川ろうぜ。)『私はどうしてドブ川を覗き込んでしまうのか』

マーガレットプレス 連載『ギモンの細道』

・「ラミネート」
(第10号/ラミネートを発明した人はコンブを手本にしたのではないか、の巻)

・「人馬平安散」
(第9号/「金はなぜ貨幣に使われるのか」を調べていたら四ツ谷駅前のハイフキヤドラッグにたどり着く、の巻)

・「恋とはどんなものかしら」
(第7号/オペラ『フィガロの結婚』で資本主義の発展の秘密にたどり着く、の巻)

・「神社と石橋」
(第6号/神社の前にはなぜ石橋があるのか、の巻)

・「夏帽子製造工場」
(第5号/鮫洲にあった紙帽子工場を調べたら横浜の三渓園にたどり着く、の巻)

・「イベリア半島の睡魔あるいは美しき怠惰」
(第4号/スペイン人はただ暑いからという理由だけで昼寝しているのか、の巻)

・「靴下のゴムはなぜ伸びるのか」
(第3号/靴下のゴムが緩む原因を調べたら長篠の戦にたどり着く、の巻)

・「シュロの奏でるハ短調」
(第2号/シュロの木を植える習慣は南国への憧れのほかにもうひとつ理由がありそうである、の巻)

また、季刊collegio(38,39号)には「水路敷区道扱い」というエッセイを書いています。
・「戸越公園の水路敷」(38号)
・「水路敷と銭湯」(39号)

その他の作品(文芸誌「フノリ」に掲載)
・「海抜の季節風」(渋谷川暗渠区間の高度をしつこく探求)
・「着席自由権」(パリのカフェのカウンター席とテラス席の料金差と客の滞在時間の関係を現地でしつこく調査)

カテゴリ
「日本のドブ川」カテゴリを廃止して「法律からアプローチする」を新設しました。ドブ川を全国レベルで捉えると、どうしても法律の話メインになるのでこのように変更しました。(H26.11.15)
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