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25 雨の日の生下水

 ここまで書いた内容を見ると、まるで市の広報紙の「下水道局からのお願い」のようになってしまっているが、私の関心はあくまで、「どうしたら効率的に古典派ドブ川のサンプルを見つけることができるか」であって、「どうしたら川はきれいになるか」はその裏返しに過ぎない。と原点を再確認したところで川の汚濁要因の探求を続ける。ドブ川のモトは何か。

 ベランダ洗濯機のような小さな要因を除くと、川の汚染の要因は次の3つくらいになる。
  ①大雨の時に未処理の下水が川に流れる問題
  ②浄化槽の性能の問題
  ③窒素分の問題

 ①は、戦後の早い時期に下水道が普及した大都市に特有の問題で、川崎では川崎区から中原区にかけての地域でこの問題を抱えている。
 大都市では人口が急に増えて川が急にドブ川化したので、急いでしかも格安に下水道を作る必要があった。そのために生活排水と雨水を一緒の管で流す合流式下水道を作った。雨水は本来下水処理する必要はないのだが、生活排水と雨水を分けて流そうとすると下水管を2本造らなければならないので合流させて一本で済ませた。

 雨水は当然のことながら晴れた日と雨天時の流量の差が激しい。
 なので、合流式の下水管は晴れた日はスカスカで、豪雨の日は溢れる。最初から巨大な管を作っておけば安心だが、晴れた日に流量が少なくて滞留すると硫化水素発生の元になるので中途半端な太さの下水管を敷く。それで案の定、晴天時には硫化水素が少し発生し、雨天時にはたまに溢れる。

 晴天時の硫化水素はとりあえず下水管に密閉しておくとして、問題は雨天時の溢水である。
 これを防ぐために豪雨の時には合流式下水管の下水を未処理でそのまま海や川に流す。
 溢れて浸水を招くよりはよかろうという考え方であるが、これが水質汚染の原因になる。中小河川の護岸には雨の時だけふたが開く排水口があって、大雨の時に見に行くとそこから茶色の水が吐き出されるのが見える。ただ、大雨の時はもともと水は濁っているものだし、私にはそれがそんなにまずいことなのかどうかよく分からない。

(合流式下水道の欠点)
合流式下水道の欠点


 しかし数字で見ると、やはりこれがまずいことだということがわかる。
 普通、下水管を流れる汚水のBODは100~200mg/lくらい。だから大雨の時に未処理で流すとそれがそのまま流れ出る。大雨で少し薄まるかもしれないが、汚れの量が減るわけではない。
 下水処理場というところがいつもBOD5mg/l近辺の水質を維持するのに神経を使っていることを考えると、これは桁違いにまずい。
 有明海の海苔の養殖地を抱える福岡県大牟田市の処理場では、工夫を重ねて「おおざっぱにしか処理できなくてもいいからなるべく多くの汚水を処理する」という方針で頑張っているそうだが、それでもBODで60mg/lくらいの水は海に流れ出てしまう。そういえば以前、雨の日の海で波乗りをしているといつもより海がくさいような気がしたが、それは気のせいではなかったのだ。
 
 この問題が水質汚濁の一番の問題で、下水処理場に見学に行くと一番強調して説明される。
 しかも汚水を河川に吐く時に下水管にこびり付いた汚泥混じりのスカム(汚泥と油分が混じって固まった黒い物体)が剥がれて流れ出てしまうという問題も抱えている。
 実際に合流式を採用している東京都心部の中小河川の下流部に行くと、雨天時に合流下水管から吐き出されたと思われるスカムがプカプカ浮いているのが見える。

 東京都心部の川はBODの数値上はそれほど汚れていないが、スカムが浮いていると視覚的にものすごく汚く見える。人間の視覚は不思議なもので、同じ汚れでも一様に汚れているものよりも、異物が混じりながらまだら模様に汚れているものをより汚く感じるようである。
 たとえば私たちは、ミカンの食べかすだけが入っているごみ袋よりもミカンの食べかすとリンゴの食べかすとスイカの食べかすがごちゃ混ぜになったごみ袋のほうを汚く感じる。汚さという点ではほとんど差がないのに妙なことである。
 これは「汚染とは何か」という深遠なテーマを引っ張り出してしまいそうな気がするのでここではあまり考察しないことにするが、スカムに関していえばこれがあると確実にドブ川感がアップする、そのように言えると思う。

 しかしこんなことを言うのは不謹慎だが、合流式下水の吐水は豪雨時の一時的な現象で、しかも一気に海に流れてしまうから古典派ドブ川の生成とはたぶんあまり関係がない。スカムにしても下流部の感潮域だと海に流れずに滞留するが、水に溶けにくいので水質にダイレクトに影響してこない。私が注目しているのは②の「浄化槽の性能の問題」のほうである。

下水吐にたまったスカム 下水管から河川に未処理下水を放出した際に吐き出されたスカム(東京都港区の古川)

参考文献
マニュアルにはない水質管理 ~お金をかけずに求められる水を~
古賀みな子著 環境新聞社刊 
この著者(下水処理場の元所長)は①雨の時に下水を少量受け入れて完璧に処理しつつ、大量に未処理下水を出すのと、②できるだけたくさんの下水をざっくりとでいいから処理するのとどっちがいいか悩んで職員と実験している。この人は所長なのに何でもかんでも実験するところが面白い。

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プロフィール

大石俊六

Author:大石俊六
掲載雑誌
雑誌「『広告|恋する芸術と科学』2014年10月号(特集|Tokyo River Story 東京、川ろうぜ。)『私はどうしてドブ川を覗き込んでしまうのか』

マーガレットプレス 連載『ギモンの細道』

・「ラミネート」
(第10号/ラミネートを発明した人はコンブを手本にしたのではないか、の巻)

・「人馬平安散」
(第9号/「金はなぜ貨幣に使われるのか」を調べていたら四ツ谷駅前のハイフキヤドラッグにたどり着く、の巻)

・「恋とはどんなものかしら」
(第7号/オペラ『フィガロの結婚』で資本主義の発展の秘密にたどり着く、の巻)

・「神社と石橋」
(第6号/神社の前にはなぜ石橋があるのか、の巻)

・「夏帽子製造工場」
(第5号/鮫洲にあった紙帽子工場を調べたら横浜の三渓園にたどり着く、の巻)

・「イベリア半島の睡魔あるいは美しき怠惰」
(第4号/スペイン人はただ暑いからという理由だけで昼寝しているのか、の巻)

・「靴下のゴムはなぜ伸びるのか」
(第3号/靴下のゴムが緩む原因を調べたら長篠の戦にたどり着く、の巻)

・「シュロの奏でるハ短調」
(第2号/シュロの木を植える習慣は南国への憧れのほかにもうひとつ理由がありそうである、の巻)

また、季刊collegio(38,39号)には「水路敷区道扱い」というエッセイを書いています。
・「戸越公園の水路敷」(38号)
・「水路敷と銭湯」(39号)

その他の作品(文芸誌「フノリ」に掲載)
・「海抜の季節風」(渋谷川暗渠区間の高度をしつこく探求)
・「着席自由権」(パリのカフェのカウンター席とテラス席の料金差と客の滞在時間の関係を現地でしつこく調査)

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