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26 単独浄化槽の問題

 浄化槽で水がきれいになる原理は下水処理場とほぼ同じなので、家庭の浄化槽でも下水処理場並みに排水を浄化することはできる。
 だから下水道がなくても浄化槽があればドブ川化を防ぐこともできる。しかしそれにもかかわらず私が古典派ドブ川を観察したい時に下水道普及率の低い街に行くのは、次のような特徴があるからである。

①家庭の浄化槽はメンテナンスがおろそかになりがちで十分に浄化されないことがある。
②トイレ以外の生活雑排水を垂れ流しにしてしまう単独浄化槽が多く残っている。

 まず①。下水道がない地域に住んでいる人と話していて驚くのが、「浄化槽の点検代がもったいないから点検をやめちゃった」という話である。浄化槽で排水がきれいになる仕組みはこうだ。

・排水を溜める空気(酸素)を送り込む微生物が水中の汚れを食べて分解してくれるそれが死んで汚泥(微生物の死骸=ヘドロ)として沈殿する上澄みは微生物のおかげできれいになる塩素で消毒する側溝に流す。


 この仕組みだと汚泥が少しずつ溜まっていく。
 汚泥が浄化槽いっぱいになると排水を浄化できなくてそのまま汚れた水が側溝に流れる。さらに塩素がなくなっているのに気付かないと、消毒されない細菌だらけの排水が側溝に流れる。これを予防するのがバキュームカーによる汚泥の掃除と点検である。
 このうち、点検を省く人が少なからずいるらしい。
 さらに汚泥を溜めっぱなしにしたり、浄化槽の電源を切ってしまったり(!)する人がいるらしい。もし下水処理場でそのようなことをしたら大事件であるが、家庭の浄化槽ならこっそり省こうとする人がいてもおかしくはない。
 そのようなわけで浄化槽は汚水垂れ流しになるリスクをいつもはらんでいる。これがドブ川発生の可能性を高める。
 
 次は②で、これが私が最重要視する要因である。
 浄化槽には単独浄化槽と合併浄化槽の二種類がある。
 単独浄化槽は水洗トイレの排水だけを浄化するもので、その他の生活雑排水は浄化できないのでそのまま側溝に流す。確かにトイレの排水はBODも高いし、病原菌も入っているのでこの浄化が最優先であることは間違いない。
 ところがこれだと生活雑排水(台所、洗濯、風呂、掃除)の排水が浄化できない。これらの汚れがばかにならないのである。特に台所排水が一番危ない。
 風呂や洗濯はBOD100mg/l近辺で安定しているが、台所から出る排水のBODはラーメンスープ2万、味噌汁3万5千、牛乳7万8千、しょうゆ15万、食用油の100万と強豪揃いである(※1)。

 私もこの数値を知ってからは恐ろしくなって、カレーを食べた後の皿をペロペロ舐めるという変な習慣がついた。遊園ラビリントのドブ板脇にはうまいラーメン屋があるのだが、ここで注文するのもあまりスープを残さずに済むつけメンにした。
 話が逸れたが、そのような排水を垂れ流しにするのはまずいということでできたのが合併浄化槽である。トイレから台所、洗濯、風呂、掃除まで、家庭の排水は全部浄化できる。
 これを使えば下水処理場と同じレベルの浄化ができる。同じレベルと言っても、「BODで20mg/l未満にすればいい」という、結構甘いレベルなのだが一応きれいにはなる。

 さらに「単独浄化槽はもはや浄化槽と呼ぶに値しません」ということで、新規設置が禁止された。
 今使っている単独浄化槽は使ってはいけないわけではないが、合併浄化槽に取り替えるよう努力すべし、と法律には書いてある。だがこの取替えが進まない。
 単独浄化槽を合併浄化槽に取り替えようとすると100万円以上の費用がかかる。市から半分くらい補助金が出ることもあるが、それでも50万円以上の自己負担になる。
 たとえば川崎市でまだ浄化槽を使っている人のうち、合併浄化槽を使っている人はたったの22%で、残り78%は単独浄化槽。
 単独浄化槽は割合としては結構多いのである。そこから強豪揃いの生活雑排水が放たれる。でもトイレ排水のほうは浄化されるから安心だあと思っていると、これがびっくりする。 
 
 単独浄化槽の放流基準はBODで90mg/l。
 90mg/l未満まで浄化すればいいですよ、という程度の浄化槽なのであった。(※2)
 ベギアトアが繁殖してヘドロだらけでくさくてたまらないというドブ川がだいたいBODで10mg/l以上であるから、単独浄化槽が1基残っているだけで強力なドブ川製造効果を発揮する。こうして単独浄化槽だらけの街には古典派ドブ川が生まれる。
一方で川崎のように下水道の普及が進んだ街でも、高い普及率とは裏腹に次のような現象が起こる。  

 ・単独浄化槽の家から放たれた濃い排水は最初は細い側溝を流れる。
 ・しかし下水道が敷設されていると、下水道に接続している家が結構あるので側溝の流量は少なくなっている。
 ・よって流れがよくない。側溝の排水は滞留気味になる。
 ・BODの高い水が滞留すると水中が酸欠で嫌気性細菌が繁殖してドブのにおいが発生する。
 ・これが流入する中小河川も下水道の普及で流量が少なくなっているので、「濃い排水」は下水道普及率で表される以上の存在感を発揮する。

 
 これが下水道普及率が高いはずの川崎で、古典派ドブ川が目に付いたり、川がなんとなくどんよりしている要因のひとつといえる。こうなると東京の渋谷川のように高い建設費をかけて下水処理水を送水して環境用水として放流するといったことが必要になる。
 川崎でそれをやっている場所は私の知るところ中原区の1河川しかないが、農業用水の役割を終えた二ヶ領用水が今でも多摩川から取水しているのは、これを低コストで実現するためなのではないかと思う。


※1この数字は面白いので、他の排水についても紹介したい(単位はBODでmg/l)。
米のとぎ汁3千、濃い目の清涼飲料水1万、おでんの汁7万4千、梅干を漬けた液10万~30万、日本酒20万、マヨネーズ120万、ビール工場の排水1千~3千、豆腐工場の排水1千2百、ヒトのオシッコ1万、牛のオシッコ1万2千。ちなみに乳牛が一日に出すオシッコの量は豚の4.5倍、ウンコの量は豚の25倍とある。牛は量で勝負なのだ。 

※2 しかしながら水をきれいにするために下水道が最善かという点で考えるとこれは結構難しい。下水道の最大の欠点は巨額の建設費がかかることで、例えば川崎市は平成20年度現在で、まだ返せていない建設費が4000億円ある。
 また、人口密集地で条件的には恵まれているにもかかわらず、下水道料金だけでは処理費用を賄えない。平成20年度で見ると汚水処理分として年間24億円、雨水処理分として年間131億円を税金から投入している。雨水処理の131億円は山と田畑を切り拓いて市街地にしてしまった都市部特有のコストであるが、これを見るとこれから下水管を敷かなければならないところや過疎地の下水道はコスト的にはかなり厳しいことが分かる。

参考文献:
用水・排水の産業別処理技術 (ポイント解説) 和田洋六著 東京電機大学出版局
(いろいろな業種から出るいろいろな排水のBODと浄化方法を完全解説。これを読めば排出源からドブ川を探し出すという逆検索が可能になるという便利な一冊。)

静岡県下水道公社のHP「食品の汚れってどのくらい?」恐るべし食品のBOD。

「平成23年度川崎市下水道事業会計決算概況」の3ページ目(川崎市のHP) 川崎市はこれでもかなりマシな部類である。
(資料が古くなってリンク切れしていたので、新しいものにリンクし直した。それによれば平成23年度は「効率化に努め」て4.3億円の黒字。やったぜ川崎市。しかしよく見ると「一般会計繰入金」(=税金投入額)が137億円。だめじゃん川崎市。要因は「雨水処理負担金費の増」とある。これを「都市開発に必然のコスト」と見るかどうか。)

コメント

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Re: 法的処置(民事)について

 伊藤様はじめまして。コメントをありがとうございます。大変お悩みのこととお察しします。
 私は単にドブ川に興味を持つ者で、水質関係の専門家でも法律の専門家でも権限を持つ行政職員でもありませんので、伊藤様のご相談に責任あるお答えをすることはできません。
 とはいえ、せっかくご相談いただきましたので、多少不正確なお答えをしてしまうことをお断りした上で、私なりの考えを記してみたいと思います。実際のご判断は行政などの専門の方にご相談の上でなさっていただければと思います。

 伊藤様の団地はおそらく次のような経過を持っているものと思われます。
①下水道が開通していない時代に集中合併浄化槽で下水処理することを条件に建設された。
②その団地は高層の集合住宅団地ではなく、戸建ての分譲地の団地と思われます。
③その後、下水道が開通したため、新規に建設する住宅は下水道に接続すればよいものとされ、伊藤様のお宅も下水道に接続した。

 問題はなぜ3軒のお宅が単独浄化槽で建設することが許されたかですが、以下の可能性が考えられます。
(1)3軒のお宅は団地に接してはいるが、団地のエリアの外側にあり、集中合併浄化槽に接続する義務が生じていない可能性。
(2)3軒のお宅は団地内にはあるが、団地の造成はかなり前に完了しているために、造成した業者はもう浄化槽接続の問題に関与していない。そのような状況の中で3軒のお宅が団地の協定に反して建設された可能性。
(3)単独浄化槽の新設は平成13年に禁止となったが、3軒のお宅はそれ以前に設置されたために、単独浄化槽を使い続けることがかろうじて許されているという可能性。

 もしも(1)~(3)に該当した場合、全く違法とは言い切れず、それで県の環境課は踏み込んだ指導ができないものと考えられます。下水道への接続に関しても行政が強制的に命令をしたという話は聞きません。そうした中で伊藤様がお考えになったのは損害賠償という手段なのだろうと察します。

 ここから先は弁護士の方のお仕事になりますので、その手法は私には見当が付きませんが、おそらく迷惑料を請求するのは下水道接続を求めるよりも難しいのではないかと思います。下水道への接続義務は、下水道法で明記されていますが、迷惑料の算定ははっきりした基準がないからです。ですので、正攻法の解決策としては、
A 下水道への接続を求める。ただし下流側で迷惑をこうむっている世帯と団結する。
とりあえずの解決策としては、
B とりあえず側溝に蓋をする工事を行政に依頼する。
ということになろうかと思います。

 ただし、単独浄化槽で存続している背景には、たとえば高低差の問題で公共下水道に接続できないとか、高齢で資金がないために工事に踏み切れない、などの問題もあるのではないかと思います。こうした問題に関しては、環境課のようなところよりは下水道のセクションのほうが解決策を持っているようにも思います。下水処理場などに話を聞きに行くと、そういう悩みを職員の方も持っていることが分かります。
 また、蓋をするといったことに関しては土木関係のセクションのほうが話が早いのではないかと思います。ドブ川探索をしているといろいろな形の側溝が開発されているのを見かけますので。
 以上、あまりお力になれませんが回答に代えさせていただきます。また末筆ながら、貴重な視点を与えてくださいましたことに感謝します。私もこれからはこうした視点で「ドブ川」を見て参りたいと思います。

法的処置(民事)について

私の住んでいる団地は現在850戸ですが、すべてが集中合併浄化槽に接続されています。この団地に家を建設するルールになっています。我家も道路に埋設されている下水道本管に接続しています。自宅の建設後に3件の家が建設されましたが、この3件が単独浄化槽で、生活排水はそのまま放流しています。しかも場合によっては、越流した汚泥が流れ出すこともあります。放流先は、我家の裏の側溝を経由して農業用排水路に流しています。
側溝の清掃と放流口の下の河川の一部を清掃するように、県の環境課を経由して指導を依頼していますが、改善されません。
滅菌していない生活雑排水が流れるのと、藻が発生するのと、腐敗臭と、好気性消化臭とで大変不衛生な状況です。住環境も悪化しています。住環境の悪化によって、土地の価値も低下します。
このように、生活に害を及ぼしていることに対して、放流している3件に対して損害賠償と迷惑料等を請求できるのでしょうか。よろしくお願いします。

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プロフィール

大石俊六

Author:大石俊六
掲載雑誌
雑誌「『広告|恋する芸術と科学』2014年10月号(特集|Tokyo River Story 東京、川ろうぜ。)『私はどうしてドブ川を覗き込んでしまうのか』

マーガレットプレス 連載『ギモンの細道』

・「ラミネート」
(第10号/ラミネートを発明した人はコンブを手本にしたのではないか、の巻)

・「人馬平安散」
(第9号/「金はなぜ貨幣に使われるのか」を調べていたら四ツ谷駅前のハイフキヤドラッグにたどり着く、の巻)

・「恋とはどんなものかしら」
(第7号/オペラ『フィガロの結婚』で資本主義の発展の秘密にたどり着く、の巻)

・「神社と石橋」
(第6号/神社の前にはなぜ石橋があるのか、の巻)

・「夏帽子製造工場」
(第5号/鮫洲にあった紙帽子工場を調べたら横浜の三渓園にたどり着く、の巻)

・「イベリア半島の睡魔あるいは美しき怠惰」
(第4号/スペイン人はただ暑いからという理由だけで昼寝しているのか、の巻)

・「靴下のゴムはなぜ伸びるのか」
(第3号/靴下のゴムが緩む原因を調べたら長篠の戦にたどり着く、の巻)

・「シュロの奏でるハ短調」
(第2号/シュロの木を植える習慣は南国への憧れのほかにもうひとつ理由がありそうである、の巻)

また、季刊collegio(38,39号)には「水路敷区道扱い」というエッセイを書いています。
・「戸越公園の水路敷」(38号)
・「水路敷と銭湯」(39号)

その他の作品(文芸誌「フノリ」に掲載)
・「海抜の季節風」(渋谷川暗渠区間の高度をしつこく探求)
・「着席自由権」(パリのカフェのカウンター席とテラス席の料金差と客の滞在時間の関係を現地でしつこく調査)

カテゴリ
「日本のドブ川」カテゴリを廃止して「法律からアプローチする」を新設しました。ドブ川を全国レベルで捉えると、どうしても法律の話メインになるのでこのように変更しました。(H26.11.15)
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