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40 アユとコイ(前編)

 コイ コイ

 牛乳コップ1杯分を魚が棲めるレベルまで薄めるには風呂桶11杯の水が必要です、と下水処理場のパンフレットに書いてある、と以前書いた。ここで登場する「魚」とは何の魚か。
 牛乳(BOD78000mg/L)のコップ1杯(0.2L)を風呂桶11杯(3300L)で薄めると、
 78000×0.2÷3300=4.7
ということでBOD4.7mg/Lの水になる。
 BODが5mg/L未満になるとコイやフナなどが棲める。よってこの魚はコイ・フナということになる。

 水質と魚の関係

 コイやフナはBOD5mg/Lにすれば棲めるがアユやサケは3mg/Lくらいまで薄めないと棲めないとされる。つまり下水処理場のパンフレットはハードルの低い魚を指標に選んでいる。
 実際ドブ川で出会う魚も汽水域でなければ大体コイであるし、コイでも、と言っては失礼だが魚には違いなく、コイとフナは「魚の棲める川」を標榜する最後の砦の魚種といえる。
 しかしこれがサケやアユとなると違う。「○○川にアユが戻ってきた」というのは事実上の清流復活宣言で、「昔は汚かったのによくぞここまで持ち直した」となる。しかし落ち着いて考えると、ここが分からない。
 
 なぜコイとフナは汚い川でも棲めるのだろうか。
 なぜアユやサケは汚い川では棲めないのか。 

 アユの群れ アユ

 
 このギモンは簡単そうでいて実はあまりよく解説されていない。
 水族館の展示を見ても魚の図鑑にもなぜかこのことを書いていない。私は今までアユがなぜ汚い川で棲めないのかも分からないのに、アユが川に戻ったと聞くと川がすごくきれいになったような気がしてしまっていたのである。くやしい。
 
 「汚い川」はおよそ3つの要素で成り立っている。
  要素①BODが高い(有機物が多い≒濁っている)
  要素②水中の溶存酸素量が少ない(酸欠状態)
  要素③澱んでいる 
 

 このことからコイ・フナは次の能力を持っていると推測できる。
  推測①濁っている状態でもエサを探せる。もしくは濁り(有機物)自体がエサになる。
  推測②酸素が少なくても呼吸できる特殊な仕組みを持っている。
  推測③水が澱んでいても平気、または流れがあると不利。
 
 
 この推測を持って水族館に行くことにする。一般に水族館というと派手なイルカショーなどのできる海水魚の水族館が多いが、わずかに淡水魚専門の水族館もあるのでそちらを選んで行く。
 一つ目は「相模川ふれあい科学館(H26.3リニューアルオープン)」、二つ目は「さいたま水族館」である。
 
 「相模川」の方は相模川の河岸段丘の谷底、水郷田名と呼ばれる地味な名所にあり、かつてアユ漁で有名だった相模川の淡水魚を前面に押し出して展示している。ちなみにここが「科学館」を名乗っているのは、ついでに相模川の水力発電もPRしてしまおうとしているためと邪推する。
 「さいたま」の方は羽生市の荒川沿いの広大な湿地を保全しながら水族館も作ったという風情で、「博物館付き巨大ビオトープ」的な迫力がある。
 周りの水田や湿地は無秩序に埋め立てられて結構うらぶれた風景になっているので、こういう形で保全されたことはよかったなあ、と思える風景である。

 さいたま水族館に隣接する湿地 さいたま水族館に隣接する広大な湿地(食虫植物ムジナモが自生している)
 
 両館ともに共通するすばらしい点は入場料が安いことであるが、共通する残念な点は「コイ・フナはなぜ汚い川でも棲めるのか」が解説されていないことである。そこで飼育係の人に上の推測①~③について質問する。
 この問題は専門家にとっても答え難そうであったが、実際に飼育しての体験も踏まえながら分かりやすく教えてもらえた。両館で教えてもらった回答を混合して上の推察①~③にあてはめると次のようになる。(カッコ内は私の見解)

回答①(BOD関係)
 コイ・フナは雑食性なのでBODの高い水の植物プランクトンは確かにエサになる。
 アユは幼魚のときは雑食性であったのが、成魚は石に付いた珪藻を食べるというように変わる。(よってBODの高い川ではアユが成魚になったときに、他の魚に勝つ優位性を保てないのではないか)

回答②(溶存酸素量の関係)
 コイやフナはエラの筋肉が発達している上にエラ自体の表面積も大きい。
 口をいつもパクパクさせてたくさん水を吸い込んでいる。
 これらの作用で溶存酸素の少ない水からも積極的に酸素を吸収することができる。
 逆にマグロのような魚は、速く泳ぐことでエラに大量の水を供給して酸素を得る。マグロが速く泳がないと死んでしまうのはそのためである。
 コイはアユよりも酸素の消費量が少なくて済む。
 コイとアユが要求する溶存酸素量は5.0mg/l(前出の表参照)と同じであるが、BODの高い水のほうが当然ながら酸欠になりやすいとは言える(有機物の分解のために酸素が消費されてしまう可能性をはらんでいる。したがって同じ溶存酸素量でもBODが高ければ、コイ有利・アユ不利となり得る)

回答③(水の澱みの関係)
 コイやフナは流れのゆるい場所(止水域という)でないと生きられない。
 コイとイワナを一緒の水槽に入れるとコイの稚魚が肉食性で動きの速いイワナに食べられてしまったりする。(コイ・フナは動きは鈍くても生きていけるように、高機能なエラと口パクを武器に競争相手の及ばないドブ川に活路を見出しているのではないか。動きが鈍いということは余計な酸素を消費しないということでもあるから、酸欠気味の澱んだ川ではコイ・フナ有利、となるのではないか)

コイ(拡大版) コイ(拡大版)


 いろいろな要因が絡み合っているので難しいが、私には回答③を理解することが今回の「アユ・コイ問題」を解くにあたって一番重要な要素と思われた。そう思ったのはその後、父親に九州の柳川にドジョウ鍋を食べに行こうという話をした時のことである。

「ドジョウ鍋はいやだ」
泥臭いから?
「子供のときにドジョウで遊んだからとても食べる気になれない」
戦前生まれの父は田んぼの水路でドジョウ取りをして遊んだという。ドジョウは友達であり、友達を食べる気になどなれないそうである。
「コイやフナやナマズとも遊んだからだめだ」

ということはウナギもだめか?
「ウナギはいい。蒲焼になっているから」
どうもよく分からない理屈である。アユはどうか?
「アユも食える。アユは水路にはいなかった。」

 どうもコイ・フナとアユ・サケは生息する場所が違うようである。
 確かにコイは神社の池に、フナは釣堀などで飼われているが、アユやサケは川を遡っていく魚である。遡っていく過程でコイ・フナの棲んでいる下流域も通り過ぎるものの、成長すれば下流域を卒業して中流域へ向かってしまう。コイ・フナは生涯澱んで温かい水を好むが、アユ・サケは成長すると流れがある冷水を好むらしく、要するにそういう根本的な違いを知らなかったので混乱していただけなのであった。
 よって、先のギモンの答えは、「コイ・フナの棲む川をきれいにしたとしても、その先に遡上していくべき冷たく速い流れがないとサケ・アユは棲まない」となる。  (41 アユとコイ(後編)につづく)

(修正)
相模川ふれあい科学館は、休館期間が終わって平成26年3月26日にリニューアルオープンした。

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プロフィール

大石俊六

Author:大石俊六
掲載雑誌
雑誌「『広告|恋する芸術と科学』2014年10月号(特集|Tokyo River Story 東京、川ろうぜ。)『私はどうしてドブ川を覗き込んでしまうのか』

マーガレットプレス 連載『ギモンの細道』

・「ラミネート」
(第10号/ラミネートを発明した人はコンブを手本にしたのではないか、の巻)

・「人馬平安散」
(第9号/「金はなぜ貨幣に使われるのか」を調べていたら四ツ谷駅前のハイフキヤドラッグにたどり着く、の巻)

・「恋とはどんなものかしら」
(第7号/オペラ『フィガロの結婚』で資本主義の発展の秘密にたどり着く、の巻)

・「神社と石橋」
(第6号/神社の前にはなぜ石橋があるのか、の巻)

・「夏帽子製造工場」
(第5号/鮫洲にあった紙帽子工場を調べたら横浜の三渓園にたどり着く、の巻)

・「イベリア半島の睡魔あるいは美しき怠惰」
(第4号/スペイン人はただ暑いからという理由だけで昼寝しているのか、の巻)

・「靴下のゴムはなぜ伸びるのか」
(第3号/靴下のゴムが緩む原因を調べたら長篠の戦にたどり着く、の巻)

・「シュロの奏でるハ短調」
(第2号/シュロの木を植える習慣は南国への憧れのほかにもうひとつ理由がありそうである、の巻)

また、季刊collegio(38,39号)には「水路敷区道扱い」というエッセイを書いています。
・「戸越公園の水路敷」(38号)
・「水路敷と銭湯」(39号)

その他の作品(文芸誌「フノリ」に掲載)
・「海抜の季節風」(渋谷川暗渠区間の高度をしつこく探求)
・「着席自由権」(パリのカフェのカウンター席とテラス席の料金差と客の滞在時間の関係を現地でしつこく調査)

カテゴリ
「日本のドブ川」カテゴリを廃止して「法律からアプローチする」を新設しました。ドブ川を全国レベルで捉えると、どうしても法律の話メインになるのでこのように変更しました。(H26.11.15)
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