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5 「下水のにおい=ドブ川のにおい」なのか

下水管

 東京の都心には下水の流れるドブ川はない。
 しかしほのかに下水のにおいのする場所はある。古い下水道の幹線が地下に埋まっている場所、例えば品川区の西小山駅前や、渋谷のセンター街などはそういうにおいがする。

 東京都心の下水道の多くは、東京オリンピックの直前に作られた。
 外国人が来たときに水洗便所がないのはまずいということで急いで作った。急ぐために、ドブ川にフタをしてそのまま下水幹線にするという方法が用いられ、オリンピック後もその方式が踏襲された。
 西小山の駅前は立会川というドブ川にフタをした下水幹線の直上であり、センター街の地下には宇田川にフタをした下水幹線の支流が流れている(※)。このような古い構造の下水幹線の埋まっているところでは、ほのかに下水の臭いがする。

 下水のにおいがするのは下水幹線の古さの問題だけではない。下水を出すビル側にも問題がある、というかそちらの要因の方が大きいそうである。
 繁華街の地下の飲食店に行ったとき、この店の排水はどうやって流しているのかと思ったことはないだろうか。
 例えば地下1階の店の場合、公共下水管は店の排水口より高い位置の地下を流れている。これをクリアするためにビルの地下2階に巨大な水槽を設けて汚水をいったん貯め、ある程度貯まったところでポンプで公共下水管の高さまで引き上げて排出する。
 この汚水を貯めるプロセスが問題で、あまり長時間貯めていると汚水が腐敗する。ただでさえくさい汚水なのに腐敗が進んで硫化水素が発生する。この腐敗した汚水を公共下水管に排出する時に硫化水素が拡散して、路上のマスから流れ出る、ということのようである。
 だから、街で下水のにおいが漂っているのは下水管の問題よりもビルの汚水の水槽の問題ともいえるが、どちらにしても下水のにおいは強烈であるということに変わりはない。

 さて、この「原液」はどのくらい強烈なのであろうか、実際に嗅いで確かめてみたくなってきた。
 地下を流れている下水は昔のドブ川と違ってトイレの排水も含んでいるからかなり強力なはずだ。田舎で汲み取り式の公衆便所に出会うと怖くて入れない私であるが、なぜか下水管のにおいは体験してみたい。

 東京の郊外の小平市に「ふれあい下水道館」という下水道のPR施設がある。この手の施設はどこの市にもあるが、ここの特徴は実際の下水管の中に入れることである。地下五階まで下りて重いハッチを開けると、下水管の中に架けられた橋の上に躍り出る。

 中はむっとするような湿気で生暖かい。
 暗闇の中をチューブ型のトンネルが貫通して、下の方に下水が流れているのが見える。色は茶色く、においはドブ川のものとは明らかに違う。ドブ川特有の青臭いコケのようなにおいがない。また、近くにあるデジタル表示板は下水管の中にほとんど硫化水素が発生していないことを示しているので、その違いもにおいに現れているのだろう。
 どちらかというと公衆便所のにおいに近いのだが、かといって汲み取り式便所のような目が痛くなるような臭いではない。トイレの排水のほかに、洗濯や風呂の水などのそれほど汚れていない水も混じって「薄まって」いるとみえる。見学者向けに刺激の少ない下水道を見せているのだろうが、思ったほどでもないな、というのが実感であった。

  参考:ふれあい下水道館のページ

 悪臭を不快に感じるかどうかは環境によるところが大きい。
 下水管の中など悪臭に満ちているところでは、鼻が慣れてしまって悪臭を悪臭とも感じなくなる。渋谷のセンター街も下水のにおいがあるが、歩く人の香水やファーストフード店のにおいといった他のにおいがかなり混じるので、下水のにおいだけを取り上げて不快に思ったりしない。
 ところが無臭であるべき場所に下水のにおいが漂うととても目立つ。
 古い下水管の通る住宅街がそうで、そういう場所は微妙な下水のにおいがとてもよく分かる。下水のにおいの中に洗剤やシャンプーの香料のにおいが混じっている。最近の洗剤やシャンプーの香料は香りが強めで出来もよく、それが下水の臭いに混じっている。

 これは昔のドブ川ではなかった現象である。
 花の香りがするなと思ったら下水を流れる洗剤のにおいだったりする。下水のにおいを嗅ぐと、今どの洗剤が売れているのかが分かることもあって面白い。
 しかし困ったこともある。
 人に会って、服から洗剤の香りが漂うと、「こないだ世田谷の呑川下水幹線で嗅いだにおいはこれだったか」などと記憶を検索してしまう。申し訳ないこととは思う。

※下水のにおいの原因についての修正(H22.8.28本文・注釈修正)
 その後気になっていろいろ調べた結果、街の下水のにおいは下水管の老朽化よりも、むしろビルの汚水管理が要因になっている場合が多いことが分かったので、修正した。ただし、ビルがない住宅街でも下水のにおいがすることがあるから、下水管に問題がある場合もある、ということもありそうである。
 以下の東京都下水道局のページには、ずばりセンター街の下水図面を使ってこのことが説明されていて分かりやすい。

  参考1:「ビルピット臭気対策について」(東京都下水道局のページ PDF6.9MB)

  参考2:「ビル街からの悪臭について」(名古屋市上下水道局のHP)

コメント

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Re: タイトルなし

ドブ様、コメントありがとうございます。素敵なお名前です。
原液が絶え間なく流れて過ぎ去ってゆく姿は面白いですよ!絶え間なく、色も変わらず、においも変わらず流れていく汚水の不思議さ。

汚水のにおいからシャンプーの売れ行き、と書いたこの記事はもう3年前のことでしたが、今は洗濯用洗剤でにおいの強いものが次々に登場したので、正直よく分からなくなってしまいました。各洗剤のにおいを覚えて嗅ぎ分けられるように精進したいと思います!今後ともよろしくお願いいたします。

原液に挑戦とは、素晴らしい記者魂ですね。汚水からシャンプーの売れ行きまで計れるとは……。

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プロフィール

大石俊六

Author:大石俊六
掲載雑誌
雑誌「『広告|恋する芸術と科学』2014年10月号(特集|Tokyo River Story 東京、川ろうぜ。)『私はどうしてドブ川を覗き込んでしまうのか』

マーガレットプレス 連載『ギモンの細道』

・「ラミネート」
(第10号/ラミネートを発明した人はコンブを手本にしたのではないか、の巻)

・「人馬平安散」
(第9号/「金はなぜ貨幣に使われるのか」を調べていたら四ツ谷駅前のハイフキヤドラッグにたどり着く、の巻)

・「恋とはどんなものかしら」
(第7号/オペラ『フィガロの結婚』で資本主義の発展の秘密にたどり着く、の巻)

・「神社と石橋」
(第6号/神社の前にはなぜ石橋があるのか、の巻)

・「夏帽子製造工場」
(第5号/鮫洲にあった紙帽子工場を調べたら横浜の三渓園にたどり着く、の巻)

・「イベリア半島の睡魔あるいは美しき怠惰」
(第4号/スペイン人はただ暑いからという理由だけで昼寝しているのか、の巻)

・「靴下のゴムはなぜ伸びるのか」
(第3号/靴下のゴムが緩む原因を調べたら長篠の戦にたどり着く、の巻)

・「シュロの奏でるハ短調」
(第2号/シュロの木を植える習慣は南国への憧れのほかにもうひとつ理由がありそうである、の巻)

また、季刊collegio(38,39号)には「水路敷区道扱い」というエッセイを書いています。
・「戸越公園の水路敷」(38号)
・「水路敷と銭湯」(39号)

その他の作品(文芸誌「フノリ」に掲載)
・「海抜の季節風」(渋谷川暗渠区間の高度をしつこく探求)
・「着席自由権」(パリのカフェのカウンター席とテラス席の料金差と客の滞在時間の関係を現地でしつこく調査)

カテゴリ
「日本のドブ川」カテゴリを廃止して「法律からアプローチする」を新設しました。ドブ川を全国レベルで捉えると、どうしても法律の話メインになるのでこのように変更しました。(H26.11.15)
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