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45 広河原のオゾントイレ

広河原の野呂川 広河原の野呂川(山梨県南アルプス市)

 ドブ川は面白いが、川はきれいなほうがいい。渓谷の清流で遊ぶと気分がいい。透明な水、透明な泡、せせらぎの音。顔をつけても大丈夫。
 しかししばらくするとやっかいな問題に直面する。トイレである。

 山の中でも観光地ならトイレはある。しかし下水道はない。したがってトイレの排水は浄化槽で処理されるであろう。
 浄化後の排水基準は、旧式の単独浄化槽ならBOD90mg/L、現行の浄化槽でも20mg/L未満である。市街地の川に流すならこれでもよいが、流す先の清流はおそらくBOD1mg/L未満。これはいたたまれない。
 以前の私ならそのようなことは気にしなかったが、ドブ川のメカニズムを知ってしまった今となっては、どうもこれが気になってしまう。だからトイレに行きたくなったらなるべく市街地のコンビニに立ち寄るまで我慢する。

 しかし山奥まで入ってしまったときはこの手も使えない。
 山梨県の甲府から車で1時間、バスに乗り換えて崖沿いの道を30分。南アルプスの山中にほんの少し開けた広河原という河原に着く。ここに北岳のあたりから発する野呂川が流れている。さすがにきれいな水である。
 ここで川遊びをしていると用を足したくなった。広河原は環境省のインフォメーションセンターがあるくらいなのでトイレはある。しかし用を足した後のものが浄化槽を通ってこの清流に流れ込むことに変わりはない。
 とは言うものの、理屈をこねて尿意が消えるわけではないので、このトイレのお世話になることにする。すると。

 トイレはピカピカの新品であったが、手洗い場に水道がない。その代わりにアルコールの消毒スプレーが置いてある。どうも様子が違う。小便器は普通のものとあまり変わらないが、大便器の個室を見てみると、トイレットペーパーは便器に流さずにくずかごに入れてください、とある。何か特別な装置のついたトイレであるらしい。
 察するに、川に排水しなくても済むような工夫のされた仕組みのトイレと思われる。仕組みはよく分からないが安心して用を足すことにする。小用であったが面白いので大便器を使ってみる。簡易水洗のようなトイレであるがにおいはしない。これはどのような仕組みのトイレであるか。

 帰ってから調べるとこれはオゾンで有機物の分解を行うトイレであることがわかった。尿は浄化槽で処理した後にオゾン処理で酸化分解され、再び洗浄水に使う。大便は汚泥として沈殿させて汲み取って凝縮して運ぶ。洗浄水混じりの汚水は尿と同じ仕組みで浄化して再使用する。

 このトイレのポイントは、
  ・なるべく水を使わない
  ・汚水を再使用するためにオゾン処理する
  ・トイレットペーパーの処理は難しいので最初から水に流さないことにする

だといえる。

 この方式だとオゾンを発生させなければならないので電気代はかさむが、排水の問題はない。かしこい。
 トイレットペーパーを流さないという発想も斬新である。トイレットペーパーは排水再生過程の支障になりやすいから、ということのようであるが、何もあんなものを水に流せるようにする必要はない。
 このトイレで一番面白いと思ったのは、トイレを超節水型にしつつ、水を再利用できるようにして、排水が出ないようにするという設計思想である。

 私もかねて思っていたのである。
「この0.2L足らずの液体のために、6Lの清浄な水を犠牲にする仕組みを何とかできないものか」

 しかし水洗トイレは、し尿を大量の水道水で押し流そうとするから下水処理の問題が出てくるのであって、押し流す水の循環をトイレ内で完結させれば問題は少なくなる。
 大便はそもそもそれほど分解できないのだし、尿のアンモニアは下水に含まれる窒素分のかなりの割合を占めるのだから、これらを下水に流さないで隔離すれば改善の余地はある。
 
 下水に流すアンモニアが多くなろうと少なくなろうと、トイレの所有者には関係のないことであるが、この種の改善は水道料金と下水道料金の節減という副産物が見込めるらしく、高速道路会社のサービスエリアのトイレでは採用が進んでいる。
 例えば、神奈川県横浜市にある第三京浜道路都筑パーキングエリアのトイレは、清潔で快適なトイレであるが、洗浄水がほんの少し黄色い。

 都筑PAトイレ 都筑PAのトイレ

 トイレ内には「再生水を利用しています」という表示があるので、建物の横に回りこんでみると浄化槽がある。ここは横浜市内なので下水道が開通しているはずであるが、エリア内では排水を浄化槽で処理して再使用している模様である。
 NEXCO東日本は、下水道がある地域でもコスト的にメリットがあればこの方式を採用する、としている。これは希望の持てる取り組みといえる。
 
 しかし当然のことではあるが、その反対の驚きを体験することも多い。
 私は、家族と海水浴場に行った。海水浴シーズンの海は混雑しているので泳ぐには適していないが、海の家がたくさんあって海水浴気分が盛り上がるのがよいところである。海の家にはシャワーもあり、まことに便利である。海から上がると、私は着替えとせっけんを持ってシャワー室に入った。ここでギモンが生じた。

「このシャワーの排水はどこへ行くのであるか?」
 この海岸のある市は下水道普及率が100%近いが、さすがに砂浜に下水管はないと思われる。仮設の水道管を引くくらいはできても下水管の仮設は難易度が高い。

 しかしこのギモンは2秒くらいで解明した。足元を見ると「すのこ」があり、「すのこ」の下が砂地になっていて、そこに水がしみこむのが見えたからである。砂の吸収力は抜群で、シャワーの排水をどんどん吸い取る。おぉ。

「ということは、ここでせっけんを使うとどうなるのであるか?」
 このギモンも2秒くらいで解決した。隣のシャワー室から「すのこ」を伝ってシャンプーの泡が大量に流れてきて、砂にみるみる吸い込まれていったからである。砂は泡もどんどん吸い取る。
 私はせっけんを使うのを止めることにした。でも興味本位で顔だけせっけんで洗ってみた。泡はやはり砂に吸い込まれていった。


<参考にしたウェブサイト>
自然地域トイレし尿処理ハンドブック 環境省HP 
いろいろなタイプの山岳トイレのメカニズムを紹介している。この分野にはかなり手間とお金がかかっていることが分かる)

南アルプス野呂川広河原インフォメーションセンターのHP 
ピカピカの快適すぎるインフォメーションセンターである。ここに限らず国立公園内には多種多様の「エコトイレ」が設置されている。例えば国道1号線の箱根峠エコパーキングのトイレは、洗浄水は再生水かつ節水タイプ、トイレットペーパーは流して可、となっている。「秘境でもない箱根でトレペ流し去り不可はさすがに理解を得られないと踏んだか?」はたまた「このトイレの反省を生かして広河原で理想形に走ったか?」などと各地の個室で設計思想を沈思黙考するのも面白い。

山岳環境保全対策支援事業(環境省国立公園のページ) 
尿と大便を分離する新型トイレの写真や、富士山に投棄された使用済みトイレットペーパーの写真など。

NEXCO東日本HP
NEXCO東日本のプレスリリース

Surfrider Foundation Japanのホームページ
海の家は水質汚濁防止法の適用対象外だそうである。シャワーはシャンプーせっけん禁止、飲食排水は油回収装置を設けるなどすれば幾分マシになる気もする。


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プロフィール

大石俊六

Author:大石俊六
掲載雑誌
雑誌「『広告|恋する芸術と科学』2014年10月号(特集|Tokyo River Story 東京、川ろうぜ。)『私はどうしてドブ川を覗き込んでしまうのか』

マーガレットプレス 連載『ギモンの細道』

・「ラミネート」
(第10号/ラミネートを発明した人はコンブを手本にしたのではないか、の巻)

・「人馬平安散」
(第9号/「金はなぜ貨幣に使われるのか」を調べていたら四ツ谷駅前のハイフキヤドラッグにたどり着く、の巻)

・「恋とはどんなものかしら」
(第7号/オペラ『フィガロの結婚』で資本主義の発展の秘密にたどり着く、の巻)

・「神社と石橋」
(第6号/神社の前にはなぜ石橋があるのか、の巻)

・「夏帽子製造工場」
(第5号/鮫洲にあった紙帽子工場を調べたら横浜の三渓園にたどり着く、の巻)

・「イベリア半島の睡魔あるいは美しき怠惰」
(第4号/スペイン人はただ暑いからという理由だけで昼寝しているのか、の巻)

・「靴下のゴムはなぜ伸びるのか」
(第3号/靴下のゴムが緩む原因を調べたら長篠の戦にたどり着く、の巻)

・「シュロの奏でるハ短調」
(第2号/シュロの木を植える習慣は南国への憧れのほかにもうひとつ理由がありそうである、の巻)

また、季刊collegio(38,39号)には「水路敷区道扱い」というエッセイを書いています。
・「戸越公園の水路敷」(38号)
・「水路敷と銭湯」(39号)

その他の作品(文芸誌「フノリ」に掲載)
・「海抜の季節風」(渋谷川暗渠区間の高度をしつこく探求)
・「着席自由権」(パリのカフェのカウンター席とテラス席の料金差と客の滞在時間の関係を現地でしつこく調査)

カテゴリ
「日本のドブ川」カテゴリを廃止して「法律からアプローチする」を新設しました。ドブ川を全国レベルで捉えると、どうしても法律の話メインになるのでこのように変更しました。(H26.11.15)
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