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59 一級河川荒川起点の碑

  arakawa1 荒川(埼玉県寄居町)

 川の博物館は埼玉県寄居町、荒川のほとりにある。
 その名のとおり河川、特に荒川をテーマにした県立博物館である。聞くと「荒川を切り口に自然科学や人文科学を捉える総合博物館」というスタンスの施設のようである。
 この博物館の庭に、荒川全体を1000分の1に縮小した立体模型がある。荒川は全長173kmなので模型の荒川の延長は173m。山や谷も正確に1000分の1でできているので、身長170cmの人は1700m上空からの風景を眺めることになる。

 秩父の山岳地帯から東京湾まで荒川が流れる様を俯瞰するとなかなか壮観である。秩父の山々はなかなかに険しく、下流の下町低地はなかなかに広い。
 中流の埼玉県平野部は平凡な風景であるが、実はここがキモで、元々利根川と合流していた荒川を分離したり、その荒川を入間川と合流させたり、その合流地点で水害が起こらないように二本の河川を何kmも並行させたり、と芸の細かいことをやっている。それはすべて下流の江戸や東京が水害に遭わないようにするためと、低湿地帯を米作地帯にして江戸に供給するためであった、というようなことを博物館のガイドの人が説明してくれる。
 
 ガイドは模型の上流部、秩父の山奥のあたりの黄色い印の付いた点を指して、「ここが一級河川としての荒川の起点です」と教えてくれる。
 山中の沢と沢が合流する地点にそれはあり、そこからが荒川なのだそうである。しかしそのまた上流にも水流は続き、「源流点」というものが別にあるという。模型を見ると確かに「起点」の上流にも流れはあり、赤い印の付いた源流点まで続いている。
 
 その部分の水流はナニモノなのか。
 
  源流点から一級河川起点まで
   (源流点と一級河川基点の位置関係 川の博物館の荒川大模型173を撮影し加筆

 荒川は国や埼玉県が管理する一級河川であるが、それは治水と利水管理の必要からであって、その必要性が低い区間は一級河川にする必要がない。
 これは他の川も同じで、例えば一級河川多摩川に注ぐ川崎市の平瀬川は途中までは一級河川に指定されているが、そこから上流は普通河川に「格下げ」される。その区間が「ドブ川」と呼ばれやすく、そのあいまいな態様は以前触れたとおりであるが、それは上流部が市街地に収まっている場合の話である。
 
 山の中の場合は事情が異なるような気がする。
 市街地のようにコンクリート製の水路構造物が無いだろうし、水流の始まりが木の根元だったりして曖昧な気もする。そういう水流も普通河川と呼ぶのだろうか。
 「普通河川=ドブ川」という観念がある私にはどうも違和感がある。しかし普通河川でないなら何なのか。沢か、渓谷かそれとも他の用語があるのか?
 
 荒川のこの起点は、埼玉県秩父市大滝の「東京大学付属秩父演習林内27林班地先(左岸の場合。右岸は22林班地先)」というところにある。
 ハイキング客には結構有名らしく、多くのウェブサイトで起点の石碑を見に行ったという旅行記を見ることができるが、当然ながら多くの人はその上流の水流が法的に何なのかには興味が無いので、その点について触れたものはない。
 私としても、それが分からなくても特に差し支えないのであるが、「河川法で指定されていない水流=ドブ川」という観念が身についてしまっているので、「河川法で指定されていないけれどドブ川でない川」が何者なのかが気になる。
 「ドブ川でない川」は、それがむしろ川の本来あるべき姿なのであって、それを何と呼ぶのかなどとギモンに思うのは少し屈折しているように思うが、面白そうなので解明してみる。
 
 起点の碑より下流部が一級河川に指定されているのは、河川法という法律で治水管理しないと収拾が付かなくなるからである。では源流点から起点の碑に至るまでの水流は何の管理をしなくても収拾が付くのか?
 おそらくそんなことはない。
 源流部は源流部で土砂が流れ出るのを食い止めなければならない。ならばそのための法律が、山中の水流のことを何らかの用語で定義しているはずである。調べるとこれは「土石流危険渓流」という用語で、次のようなことになっていた。
 
 ・「渓流」のうち、勾配が15度以上で、「人家のある『土石流危険区域』に流入する渓流」「土石流危険渓流」に指定される。
 ・土石流危険区域とは「想定される最大規模の土石流が発生した場合、土砂の氾濫が予想される区域」のことである。 

 渓流。河川の上流端の先は渓流と呼ぶのであったか。してみると渓流とは何か。
 
 ・渓流とは、「山麓における扇状の地形の地域に流入する地点より上流の部分の勾配が急な河川(当該上流の流域面積が五平方キロメートル以下であるものに限る)」
のことのようである。
 
 これは「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律施行令」というところにひっそり載っている。川が山から平地に流れ出てドバーっと扇状地を形成するあたりより上流が渓流だと言っている。

  渓流模式図
   (荒川大模型173の秩父盆地付近によるイメージ。ただし現地の指定状況は正確に反映していない。) 

 
 ここで注目すべきは「勾配が急な河川」という表現である。なんと渓流は河川なのであった。
 河川の上流端の先は渓流だと思っていたが、そこも河川であるという。私は渓流にかなり期待を寄せていたのである
が、振り出しに戻ってしまった。
 そこで別の角度から調べてみた。渓流と河川はいかなる関係にあるのか?

  ・土石流危険渓流は、川の最上流部に多く、ある程度の川幅になっている箇所は土石流危険渓流に指定されていない。
  ・しかし一級河川であっても最上流部になると土石流危険渓流に指定されていたりする。
  ・普通河川で土石流危険渓流に指定されているものもある。
  ・それらの普通河川の多くには「○○沢」という名が付いている。名前は沢でも普通河川である。

 土石流危険渓流という用語は「土石流を防がなければならない水流かどうか」という視点だけで水流を捉えているので、それが「治水や利水管理しなければならない河川かどうか」は念頭にないようである。したがって土石流危険「渓流」でありながら普通河川であったり、まれに一級河川であったりする。クロスジャンルなのである。
 
 山間部の水流においては、「土石流を防ぐ」という行為と「治水する」という行為は似ているので、このような区分の仕方は分かりにくい気もするが、山を下って河川の幅が広くなればそれは土石流対策というよりはやはり治水であり、山を上って狭くなれば逆に土石流対策を超えて「治山」ということになってくることは間違いない。
 おそらくそういうような事情で法律で縦割りにして、「オーバーラップする部分があっても仕方なし」という便法が取られているものと見える。
 オーバーラップを容認しないと例えば、「国有林の中の一級河川の細流は森林法が適用されるからそこだけは一級河川でなくなってしまう」というような別の方面の問題が発生するようである。言われてみれば確かにそうである。
 
 ということで話を戻すと、さきの荒川の問いの答えは、
「一級河川荒川の基点より上流の水流は普通河川である。」
となる。
 普通河川、すなわち「ただの川」である。山中の水流もただの川、市街地のドブ川もただの川。



埼玉県立川の博物館のHPはこちら 荒川の模型はどうやら水を流すこともできるようである。

(参考にしたウェブサイトと文献)
①「市町村水道等の水利権取得状況」(埼玉県HP掲載 PDFファイル) 
 荒川源流域の水流の状況が分かる。

②秩父市地域防災計画 (秩父市HP掲載 PDFファイル)
 262ページに土石流危険渓流一覧表があり、①と照らし合わせると、「一級河川で土石流危険渓流」であるものや「普通河川で土石流危険渓流」であるものなどがあぶりだされる。

③「水法論序説 -特に国有林野上の普通河川をめぐって-」黒木三郎 (早稲田大学リポジトリに掲載 PDFファイル)
 「国有林内にある一級河川は農林水産省のものなのか国土交通省のものなのか?」という争いがかつてあったらしく、それについて述べた論文。
 結論は「農林水産省のものとして扱っていいけど、河川の管理は国土交通省とよく話し合ってくださいね」といったようなものである。
 この論文は「それは分かったけど、じゃあ河川法の絡まない普通河川はどうなんですか?地下水はどうなんですか?」という点について論じている。
 なお、この論文が書かれたのは昭和61年で、その後の平成11年の地方分権一括法によって普通河川の扱いはかなり変わったから注意が必要であるが、国有林内の普通河川に関しては引き続き農林水産省のもの、ということで変わりがないようである。そのことについては④の文書で説明されている。

④「法定外公共物に係る国有財産の扱いについて」平成11年7月16日 大蔵省理財局長


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大石俊六

Author:大石俊六
掲載雑誌
雑誌「『広告|恋する芸術と科学』2014年10月号(特集|Tokyo River Story 東京、川ろうぜ。)『私はどうしてドブ川を覗き込んでしまうのか』

マーガレットプレス 連載『ギモンの細道』

・「ラミネート」
(第10号/ラミネートを発明した人はコンブを手本にしたのではないか、の巻)

・「人馬平安散」
(第9号/「金はなぜ貨幣に使われるのか」を調べていたら四ツ谷駅前のハイフキヤドラッグにたどり着く、の巻)

・「恋とはどんなものかしら」
(第7号/オペラ『フィガロの結婚』で資本主義の発展の秘密にたどり着く、の巻)

・「神社と石橋」
(第6号/神社の前にはなぜ石橋があるのか、の巻)

・「夏帽子製造工場」
(第5号/鮫洲にあった紙帽子工場を調べたら横浜の三渓園にたどり着く、の巻)

・「イベリア半島の睡魔あるいは美しき怠惰」
(第4号/スペイン人はただ暑いからという理由だけで昼寝しているのか、の巻)

・「靴下のゴムはなぜ伸びるのか」
(第3号/靴下のゴムが緩む原因を調べたら長篠の戦にたどり着く、の巻)

・「シュロの奏でるハ短調」
(第2号/シュロの木を植える習慣は南国への憧れのほかにもうひとつ理由がありそうである、の巻)

また、季刊collegio(38,39号)には「水路敷区道扱い」というエッセイを書いています。
・「戸越公園の水路敷」(38号)
・「水路敷と銭湯」(39号)

その他の作品(文芸誌「フノリ」に掲載)
・「海抜の季節風」(渋谷川暗渠区間の高度をしつこく探求)
・「着席自由権」(パリのカフェのカウンター席とテラス席の料金差と客の滞在時間の関係を現地でしつこく調査)

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