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60 法定外公共物にただよう情趣について考える

 maizuru1 水路(京都府舞鶴市)

 第31章「公共溝渠と普通河川と水路はどう違うのか(後編)」で、日頃私がドブ川と呼んでいる水路や普通河川(以下「水路」という)が法定外公共物とよばれるカテゴリーに入るということを述べた。この時に「公共用財産」や「普通財産」といったカテゴリーの定義を間違えた。
 
 この間違いは私の不勉強によるものであったが、せっかくなので「なぜこのような間違え方をしたのか?」を掘り下げてみると興味深いことに気が付いた。この間違いはおそらく、ドブ川が法的に中途半端な存在であることが関係している。
 自分のミスを法律のせいにしようとしているわけであるが、それも兼ねて少々眠たい分野ながらこの点の解明にチャレンジしたい。ただし私はこの分野の専門家ではないので、これから書くことは「ドブ川行政法学習ノート」くらいに捉えていただければ幸いである。
 
 水路は法律的には国有財産法というところから入る。
 正確には、平成11年以降は零細な水路はほとんど県や市に譲られたので「国有」財産ではないが、ここでは話を簡単にするために国有であった時代の仕組みで考えることにする。
 
 まず、国有財産は
①行政財産
②普通財産
に分けられる。
 両者の違いは「行政目的に供せられているかそうでないか」という点である。行政目的つまり、「行政機関がやっている仕事に使われているかどうか」で分ける。例えば、

・河川敷は「川の水を流す」という行政目的に供せられているので①行政財産であるが、
・流路が変わってそういう目的に供せられなくなった区間の土地は②普通財産になる。

  doblaw1

 次に①行政財産は①a公用財産と①b公共用財産と①c皇室用財産と①d森林経営用財産に分けられる。
 ①a公用財産は、河川の水門の管理事務所など役所が直接使っているもの
 ①b公共用財産は、河川本体のように誰でも自由に使えるもの
である。誰でも川に水を流してよいし、河川敷で遊んでよい。①cと①dはここでは割愛する。

  doblaw2

 このうちドブ川にかかわりの深いのは①b公共用財産である。これがさらに「法定公共用財産」「法定外公共用財産」に分かれる。
 法定の「法」とは、道路法や河川法や海岸法など、道路や川や海を管理しようとする専門の法律のことである。川の場合は、

・河川法が適用・準用される一級・二級・準用河川の土地は「法定公共用財産」
・河川法が適用されない水路(普通河川・公共溝渠)の土地は「法定外公共用財産」

となる。

  doblaw3

 しかしここで困ったことが起こる。「財産」とはこの場合、水が流れている土地のことを指す。しかし河川は土地だけで成立するものではなく、その上を流れる水があってはじめて河川である。しかし水は土地と違って不動産や動産ではないので、財産とは言えない。これらをまとめて何と呼んだらよいか。
 そこで、財産(ここでは河川の土地)とその上にある公物(ここでは水)の総体(ここでは河川)を「公共物」と呼ぶことにした。つまりこうなる。

 ・公共用財産(土地)+公物(水)=公共物(河川)

 これをもとに、

 ・一級・二級・準用河川=法定公共用財産+公物=「法定公共物」
 ・水路(普通河川・公共溝渠)=法定外公共用財産+公物=「法定外公共物」

といった具合にカテゴリーが作られた。

  doblaw4

 このうち後者の「法定外公共物」はドブ川について調べていると各地の市役所のホームページに頻繁に出てくるので、少し馴染みのある用語である。
 法定外公共物は明治以来平成11年まで国有財産であったが、「そういう各地の細かい水路は地方自治体に譲りますよ」ということで、現在は主に市町村の「公有財産」になり、根拠になる法律も地方自治法ということになっている。市役所のホームページに頻繁に出てくるのはそのためである。

 各地の市役所には「家と水路の敷地境界を調べたい」とか「家の前を流れている水路に橋を架けたい」とか、「水路の敷地を買いたい」といった要望が寄せられるらしく、それらに関するQ&Aがホームページに書かれている。
 そこには、「水路に橋を架ける」くらいは許可を得ればできなくはないが、「水路の土地を買いたい」はダメだと書いてある。
 なぜダメかというと、水路は水を流すという公共機能を持つ「公共物」だからである。

 ・水路は治水上さほど重要でないから河川法で管理されていない(=法定外)だけで、
 ・公共的な機能を担っていることに変わりはなく(=公共物)、
 ・したがってその敷地は公共用財産であり、
 ・するとこれは①行政財産ということになり、
 ・そこで地方自治法を見ると「行政財産は売り払ってはならない」と書いてあるから、
 ・水路の敷地を売るのは無理。

というロジックである。これはなかなか分かりにくい構造である。

 ・水路は河川法で管理されないので「法定外」ではあるが、「行政財産」でなくなるわけではないという点と、
 ・「法定外」の「法」に国有財産法や地方自治法が含まれない

という点が分かりにくい。
 しかしこの分かりにくさの中にポイントがある。なぜならこれを裏返すと、
 
 ・水路は、公共物(つまり行政財産)なので売り払うことはできないが、
 ・水を流すという機能が失われて正式に廃止する手続きを経れば、
 ・公共物でなくなり、
 ・行政財産でない、ということになり、
 ・つまり普通財産となって売り払えるようになるし、
 ・しかも平成11年からは水路の敷地は市町村に譲り渡されていることが多いので、この手続きが市役所の中だけで完結する。(※)
 
 という仕組みが用意されているからである。
 これは敷地が国有である一級・二級・準用河川などにはない水路・普通河川独特の仕組みである。
 するとこういう二層構造が見えてくる。

 A 一級・二級・準用河川=法定公共物。公共物であり、河川法で管理されてもいる二重に縛られた本命行政財産。
 B 水路・普通河川
=法定外公共物。公共物ではあるが、河川法では管理されてはいないという、ゆるめの行政財産。水を流すという機能がなくなれば行政財産でなくなるので「普通財産一歩手前の行政財産」とも言える。
 実際にはこの下に
C かつて河川や水路であったが今はそうでない「旧法定外公共物」というものがあり、これは公共物ではなく、したがって行政財産ではなく、普通財産とされ、売り払い自由、というものもあるので三層構造である。

   doblaw_5
   doblaw6

 A→B→Cの順に管理の度合いは緩くなり、水を流すという機能が薄れていく。法律にはそのようなことは書いていないが、事実上そうなっている。
 ここで注目したいのはBである。Bの顔ぶれは、河川名が付いて滔々と水が流れてAに負けず劣らずのものから、無名で水が枯れてC寸前のものまで多種多様であるが、基調としては、「Aの予備軍である一方で、Cに格下げされる地ならしの場」としての性格を持つようになる。このようなあいまいな性格付けの結果、Bのカテゴリーには悪く言えばうらぶれて管理不明瞭、よく言えば情趣が漂うようになる。護岸に盆栽を並べられたりして、路地裏のごとき生活感をまとうようになる。私がドブ川に感じている親しみやすさの源はこの辺りにある。  



※詳しくはこちら。第31章 「公共溝渠と普通河川と水路はどう違うのか(後編)」

(参考にした文献とウェブサイト)
公共用財産管理の手引―いわゆる法定外公共物 建設大臣官房会計課/監修 平成7年
 役所の人向けの業務用参考書と思われるが、わりと分かりやすく書いてあるので法律を全く知らなくてもさほど難しくない。少し古いが、難解なドブ川行政法を解くには絶好の解説書。東京都立中央図書館などで閲覧可能。

「法定外公共物に係る国有財産の取り扱いについて」 平成11年7月16日 大蔵省理財局長   

「法定外公共物(里道・水路)に関する取り扱いが変わりました!!」 香川県東かがわ市のHP

国有財産法 この地味なタイトルの法律の第3条に国有財産の分類の仕方が書いてある。

地方自治法 この法律の第238条というところに、ドブ川の法的なポジションが書かれている。この法律は299条まである長い法律なので238条以外は全く読む気がしないが、まれに「市になるには人口5万人以上で、全戸数の6割以上が中心の市街地になければならなくて、商工業従事者世帯の人口が全人口の6割以上なければならない(第8条)」というような面白いことも書いてある。


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プロフィール

大石俊六

Author:大石俊六
掲載雑誌
雑誌「『広告|恋する芸術と科学』2014年10月号(特集|Tokyo River Story 東京、川ろうぜ。)『私はどうしてドブ川を覗き込んでしまうのか』

マーガレットプレス 連載『ギモンの細道』

・「ラミネート」
(第10号/ラミネートを発明した人はコンブを手本にしたのではないか、の巻)

・「人馬平安散」
(第9号/「金はなぜ貨幣に使われるのか」を調べていたら四ツ谷駅前のハイフキヤドラッグにたどり着く、の巻)

・「恋とはどんなものかしら」
(第7号/オペラ『フィガロの結婚』で資本主義の発展の秘密にたどり着く、の巻)

・「神社と石橋」
(第6号/神社の前にはなぜ石橋があるのか、の巻)

・「夏帽子製造工場」
(第5号/鮫洲にあった紙帽子工場を調べたら横浜の三渓園にたどり着く、の巻)

・「イベリア半島の睡魔あるいは美しき怠惰」
(第4号/スペイン人はただ暑いからという理由だけで昼寝しているのか、の巻)

・「靴下のゴムはなぜ伸びるのか」
(第3号/靴下のゴムが緩む原因を調べたら長篠の戦にたどり着く、の巻)

・「シュロの奏でるハ短調」
(第2号/シュロの木を植える習慣は南国への憧れのほかにもうひとつ理由がありそうである、の巻)

また、季刊collegio(38,39号)には「水路敷区道扱い」というエッセイを書いています。
・「戸越公園の水路敷」(38号)
・「水路敷と銭湯」(39号)

その他の作品(文芸誌「フノリ」に掲載)
・「海抜の季節風」(渋谷川暗渠区間の高度をしつこく探求)
・「着席自由権」(パリのカフェのカウンター席とテラス席の料金差と客の滞在時間の関係を現地でしつこく調査)

カテゴリ
「日本のドブ川」カテゴリを廃止して「法律からアプローチする」を新設しました。ドブ川を全国レベルで捉えると、どうしても法律の話メインになるのでこのように変更しました。(H26.11.15)
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